求められる心理職の役割|産後うつへの心理支援

はじめに

筆者はオンラインでの心理カウンセリング業務を行っています。

自宅にいながらカウンセリングができるということで、コロナ禍の今、幅広い年齢層の方々が利用されています。オンラインカウンセリングを申し込まれる方の相談内容は、メンタルヘルスの問題や家族の問題、恋愛に関することまでさまざまですが、最近では産後うつの相談のためにカウンセリングを申し込まれる女性が多くいる印象を受けています。 

産後うつとは

産後うつとは、出産後4週間以内に始まる気分障害であり、悲しみや不安、イライラ、興味の喪失、食欲不振、慢性的な疲労感、赤ちゃんへの過剰な心配や関心の欠如などの症状が現れます 1)

2013年の厚生労働省の調査によると日本人女性の産後うつの有病率は9.0% 2)ですが、日本周産期メンタルヘルス学会の調査によると、新型コロナウイルス感染拡大により、医療関係者の4分の3が妊産婦のメンタル不調の相談を受けています 3)。 

産後うつの女性を取り巻く現状

厚生労働省の「健やか親子21」の最終評価によると、育児について相談相手のいる母親の割合は1歳6カ月児検診では95.9% 2)でした。しかし近年、コロナ禍のために「気軽に実家を頼れなくなった」「友人に会って相談することができなくなった」と実際に相談を受ける中で訴える女性が増えました。身近な人に気軽に相談することができなくなり、外出も制限される今、オンラインによるカウンセリングを求める女性は増加しています。

産後うつの危険因子として、過去の精神病の既往、妊娠中の心理的障害、ストレスフルなライフイベント、夫婦関係の悪化、社会的サポートの低さが挙げられます4)。しかしながら、実際に筆者の元に訪れる女性の多くは「夫は家事や育児をよくやってくれている」「両親が近所に住んでいて手伝ってもらっている」と話しています。両親が近所に住んでいたり、夫が育休を取っていたりと一見サポートは充実しているように見えますが、カウンセリングの中で詳しくお話を聞いてみると、「近くにいるけどうまく頼れない」「仕事で疲れているのだからこれ以上甘えるのは申し訳ない」と話す女性が少なくありません。

サポート体制は整っていながらも、お母さん自身が甘えることや頼ることに抵抗があり、「こんなにしてもらっているのにまだつらいと感じるなんて自分はダメな人間だ」と自分を追い詰めてしまうこともあります。 

産後うつの女性に心理職ができること

最近では、ファミリーサポートや家事代行サービス、ベビーシッターなど、お母さんたちを助けるさまざまなサービスがあり、積極的にサービスを利用する人も増えてきました。そのため、一人ですべての家事・育児を自分がやっているという人は以前よりは減った印象をもっています。それでも心の部分まではケアされていないというのが現状です。

このような状況で心理職ができることは、お母さんたちが感じているつらさや苦しさをしっかりと聞いて、今十分に頑張っていることを認めてあげることだと思います。ほとんどのお母さんたちは心も体もへとへとになってしまうまで頑張っているにもかかわらず「私がもっと頑張らないからだめなんだ」「どうしたらもっと頑張れるのか」と悩んでしまっています。すでに限界まで頑張っているにもかかわらず、もっともっと頑張らなければいけないと自分を追い詰めてしまっています。

そういったお母さんたちにブレーキをかけることができるのが心理職の役目の1つではないかと思っています。カウンセリングの中で、お母さん自身が頑張ってきたことを一緒に振り返ることで「これでいいんだ」「自分はよくやっている。これ以上頑張らなくてもいいんだ」と少しずつ自分を認めてあげることができ、自分の心や体を労わることができるようになります。

また、産後うつのお母さんたちの中には完璧主義な方が多くいます。完璧主義な方の場合、子育ての中で失敗してしまったことに長い間とらわれてしまい、身動きが取れなくなっていることも少なくありません。そういったケースでは、失敗体験として捉えていたことを頑張った体験として一緒に捉え直していく作業を一緒にすることもあります。「いろいろあったけれど、なんとか乗り越えられた」という感覚をもってもらうことで、子育てに対して少しずつ前向きになれたケースもあります。 

産後うつの支援の今後

産後うつの支援をすることは、目の前のお母さんを助けるだけでなく、子どもを助けることにもつながります。カウンセリングを重ねる中で「夫婦喧嘩が少なくなった」「久しぶりに家族で楽しく過ごせた」という声を聞くと、お母さんの心の安定が家族の幸せにつながっていることが実感できます。

産後うつは軽度であれば誰かに話したり気持ちを受け止めてもらったりすることで落ち着いてきますが、重症化すると虐待や自殺のリスクが高まる危険性もあります。そのため、早期発見、早期対応が何よりも求められます。産科における心理職の配置はまだまだ多いとはいえません。今後、産科での心理士の配置が増え、切れ目のない支援ができることを期待しています。

実際にカウンセリングを行う中で、身近な誰かに頼ることや甘えることが苦手なお母さんが多くいることもわかってきました。

お母さんたちが本当の意味でサポートが受けられているかをしっかりと聞くためにも、心理職のような1対1で時間をかけて話を聞く存在が、今後ますます必要になってくるのではないでしょうか。

 

参考文献
1) Patel, M. et al. Postpartum depression : a review. J Health Care Poor Underserved. 23(2), 2012, 534-42.
2) 厚生労働省.「健やか親子最終評価報告書」(参考資料1〜6).2013.https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000035402.pdf(2022年3月閲覧)
3) 日本周産期メンタルヘルス学会.COVID19の感染拡大にともなう妊産婦のメンタルヘルスに関する実態調査(結果報告書・プレスリリース).2020.https://pmh.jp/outline/20201001.pdf(2022年3月閲覧)
4) O’Hara, MW. et al. Rates and risk of postpartum depression : a meta-analysis. Int Rev Psychiatry. 8(1), 1996, 37-54.

 

(文・構成 臨床心理士・公認心理師 谷口咲希)

 


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