求められる心理職の役割|小児科の臨床心理士

はじめに

病院で働く心理士といえば精神科にいるイメ―ジがあるかもしれませんが、小児科にも心理職が活躍する場があります。

筆者が勤める総合病院に精神科外来はありません。精神科医は入院患者の精神面を診るために在籍しており、心理士と連携して対応にあたります。精神科がないため、心理士はリハビリスタッフや薬剤師などと同様に、医療技術局の所属となっています。

がんや心不全に対する緩和ケアチームでの業務、入院患者や周産期の家族への心理カウンセリング、小児科外来での心理カウンセリングや心理教育業務を行っています。

小児科での心理士の仕事内容

小児科での心理士の仕事内容は多岐にわたります。対象となるのは小児科を通院もしくは入院している子ども(0~18歳)そしてその家族です。主に、身体疾患、不登校、発達障害疑い、自殺未遂、交通事故による心的外傷などさまざまな悩みを抱えた子どもと家族のカウンセリングを行います。

小児科医、看護師、リハビリスタッフは日々子どもや家族と直接関わりながら、身体だけでなく心理的な状態も観察しています。その中で、カウンセリングの必要があると感じた場合に、心理士と精神科医に依頼がきます。心理士に依頼するときは、必ず小児科医を通すことになっています。

小児科医からカウンセリングを依頼されると、心理士はまず精神科医とカルテをチェックし、方向性を決めます。精神科医に適宜報告しながら小児科での心理士のカウンセリングのみで進める場合もあれば、精神科にスムーズに紹介するための布石としてカウンセリングを行う場合もあります。

カウンセリングを行ったときは、関係するスタッフが情報共有できるようすべてカルテに記載します。日頃から小児科医や看護師、リハビリスタッフと会話する機会を持ち、ケースについて適宜検討しながら進めています。

当院では、小児科には臨床心理士が1名配置されています。カウンセリングは親子同席で行う場合と別日に設定する場合があります。保護者が話をしている間待つことができないケースや、一緒に来ることが望ましくないケースは、あえて別日に来てもらうようにしています。別々に対応するときは、話したことを伝えて良いか、伝えることのメリットなどを確認してからそれぞれに共有しています。

小児科では、病気に関する相談に限らず、子育ての悩みも診療の対象です。子育ての悩みを吐露する家族も少なくありません。そのような悩みに対しては、ペアレントトレーニングという保護者向けのグループワークを行います。

※ペアレントトレーニング…行動療法にもとづいて作られた、親の行動を変化させることによって子どもの行動変容を促す全10回のプログラム。発達障害児の親や、子育てに不安を抱える親への支援として考案された。

小児科における心理士の必要性と現状

対象年齢も幅広く、対象疾患も多様なため、小児科は非常に間口の広い診療科といえます。そのため、身体症状だけでなくさまざまな悩みを抱えた子どもがやってきます。不登校などの場合も身体症状を訴えることが多く小児科へ受診となりますが、学校での人間関係など医療では解決できない悩みなどもしばしば聞かれます。

訴えから考えられる疾患を精査した結果、身体面に問題がない場合、小児科医は目の前で困っている子どもに何をしてあげられるのか悩みます。じっくり話を聞く必要性を感じても、待合スペースには診察を待つ子どもがたくさんいます。身体面に問題がないからといってすぐに精神科に紹介するのも難しい場合が多くあります。「精神科に紹介します」と言った途端に通院を中断することや、「そこまでひどい状態ではありません!」と拒否されることも、現場では割とよくあることです。

そういったときのワンクッション的な役割として小児科には心理士が必要です。精神科への紹介は難色を示す人も、心理士への紹介は了承してくれる確率が高いです。心理士と話しているうちに、精神科への受診の必要性を認識してくれる場合もあります。なかには心理士と数回話しただけで元気になっていくケースも経験したことがあります。心理士は子どもと家族が病院に助けを求めたときに、医療だけでは解決できない隙間の部分を埋める存在として必要でしょう。

とはいえ2014年に日本臨床心理士会が行った調査によれば、小児科で臨床心理士を雇用している病院は22.2% 1)にとどまっています。その理由は、臨床心理士単独の配置加算や、臨床心理士による心理業務に対して保険点数がつかないことにあるでしょう。つまり臨床心理士が小児科でカウンセリング業務を行うことは、病院側の持ち出しとなります。それでも小児科における心理士の必要性は高まっており、少しずつ配置する病院が増えています2)

他職種が心理士に対して感じていること、心理士にしてほしいと思っていること

小児科医や看護師、リハビリスタッフから心理士はどういった役割を求められているのでしょうか? また、他職種は心理士に対してどのような思いを抱いているのでしょうか? 当院での意見を紹介します。

小児科医
小児科にくる子どもたちは、身体症状だけを診ればよいわけではありません。子どもを取り巻く家族や学校のことなどさまざまな悩みを抱えて受診してきます。一人ひとりと丁寧に向き合いたいと思う気持ちがあっても、医師だけでは、他の患者さんを待たせてゆっくりと話を聞くことが難しいのが現状です。心理士がチームに加わったことによって、患者さんのニーズに応えられる幅が一気に増えたと感じます。

看護師
自殺未遂や交通事故に遭った子どもなど、関わり方に悩む場面が多かったです。心理士がチームに加わってからは、子どもと遊びながら話を聞きだしてくれています。「こういう子だからこのようにすると良い」など対応の仕方を教えてくれることが一番助かります。子どもを傷つけないように、十分に注意を払って関わっていますが、やはり対応に自信がないときもあります。客観的に見て方向性を示してもらえることでぐっと関わりやすくなりました。

リハビリスタッフ
子どものリハビリの中で、家族の様子が気になることがとても多かったです。自分たちもできるだけ話を聞くように心がけてはいますが、やはり子どものリハビリがメインの仕事なので、それほどしっかり聞けないのが現状です。今は、子どものリハビリ中に、家族がカウンセリングを受けるという流れとなっており、とても良いなと思っています。家族が安定してくると、子どもの成長もよくなるように感じています。

小児科での心理職のやりがい

小児科で心理職をしていて最もやりがいを感じるのは、カウンセリングに来た子どもや家族が少しずつ元気を取り戻し、自分なりの道を見つけて巣立っていく姿を見られることです。

筆者が経験したあるケースを紹介します。

頭痛と不登校が主訴で来院した女子中学生でした。小児科医が診察をしても身体疾患はなく、家族問題が大きく影響しているとのことで、心理士へ紹介となりました。

当初、父母の離婚や母親が自分にだけ冷たいことを泣きじゃくりながら話す面会が続いていました。その後、本人に許可をもらい、母親とも別日に会うようになりました。母親は母親で、さまざまな問題を抱えながら必死に頑張っている状況でした。母親とは本人への関わり方をともに検討し、本人には母親の気持ちを伝えつつも、基本的には話を聞くことに徹してカウンセリングを続けました。小児科医とも定期的にカウンセリングの進捗状況や体調面の確認など共有し、小児科医と二人三脚で1年半見守り続けました。

カウンセリングが進むうちに本音を言葉にすることができるようになり、母親との関係が解消するにつれ、少しずつエネルギーが湧き、学校へも足が向くようになっていきました。

最後の診察とカウンセリングの日、これまで別々に来ていた親子がそろって来てくれました。相談室で一緒に話しながら自然とほほ笑みあう親子がそこにいました。結局、卒業までに不登校を完全に解消することはかないませんでした。けれども彼女は高校に進学し、その3年後には音楽大学に合格したと、うれしい報告を受けています。

小児科の心理士は、子どもだけでなく、子どもを取り巻く家族が健やかになっていく姿を見守ることができます。これが一番の醍醐味であると感じています。

小児科(外来)での心理職の雇用を増やすために

病院において、臨床心理士の働きが診療報酬として認められるためには、さまざまな制約があります。小児科(外来)で心理職を雇う場合、多くは病院側の無償サービスとなってしまうことが雇用を妨げる原因の一つでしょう。小児科で心理職を雇用することのメリットはあっても、病院の経営を考えると採用に踏み切れないケースが多くあるのです。

日本では、公認心理師という国家資格が誕生しました。病院で働く他の専門職同様に、配置加算や心理職による心理業務に対して診療報酬を得られるよう制度が変わっていくことで、小児科での心理職の雇用は増えていくと考えます。

医療分野では心理職がいなくても治療自体には影響しない部分が多くあります。けれども、心理職の存在によってより良い医療が提供できることを周知してもらうために専門性を磨き、仕事を開拓していくことが大切だと考えています。他の専門職のように、どの病院においても、なくてはならない存在と認知されるようになれば、おのずと制度も変わっていくのではないでしょうか。

 

引用・参考文献
1)一般社団法人日本臨床心理士会第2期後期医療保健領域委員会.医療領域における臨床心理士に対するニーズ調査結果報告書.2014.http://www.jsccp.jp/suggestion/sug/pdf/iryou_20141202.pdf(2020年1月閲覧)
2)細田珠希.小児医療における心理的援助に関する調査研究:米国との比較から.小児保健研究.小児保健研究.2011,70(4),554-9.

 

(文・ライター/医療技術局 臨床心理士・公認心理師 あいいろこっこ)


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