心の健康を守り安全・安定輸送を支える|New Wave!産業分野で活躍する心理士たち

「New Wave!産業分野で活躍する心理士たち」では、産業分野で働く心理士に焦点をあて、働き方の実際や取り組みを紹介します。


東海旅客鉄道株式会社
健康管理センター 臨床心理士
竹田龍二

EAPから企業内の産業保健スタッフへ

2012年に入社し、社員の相談業務(心理検査、心理面接、コンサルテーション)や職場復帰支援、職場環境改善活動、メンタルヘルス施策の企画・運営、メンタルヘルス研修などを行い、鉄道の「安全・安定輸送」を支えています。健康管理センターには、東京・静岡・名古屋・新大阪に健康管理室があり、ほかの3拠点の臨床心理士とは、月に1度は集まって情報共有をして連携を図っています。

前職はEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を提供する会社で、契約企業の相談窓口として社員への相談業務や企業担当者へのコンサルテーションなどを行っていました。さまざまな業種・業態の企業と関われたことは私自身の「ものの見方」の幅が大きく広がる貴重な経験となりました。また、外部委託されたEAPサービスでは、組織の外側から客観的に問題を眺められる分、それぞれの課題を把握しやすい利点もあります。しかし外部委託という契約関係上、組織全体や体制を大きく変える必要があるような一歩踏み込んだ提案をすることが難しい場合もありました。

現職は一つの企業の中で、産業保健スタッフの一人として、その時々の状況に応じたメンタルヘルス施策を提案しています。産業保健活動の求める「あるべき姿」と会社が求める「あるべき姿」について、互いにじっくりと意見を話し合いながら、時にはそれぞれが一歩ずつ踏み込んだ提案をすることもできるのが、企業内の産業保健スタッフならではの働き方だと思います。

多職種で構成されるプロジェクトチーム

新大阪健康管理室では、米原から新大阪までの新幹線駅の駅員や車掌・運転士、車両の整備、線路や駅舎などの維持管理、電気や信号通信設備の保守管理などの現場で働く社員、そして企画や運営などを担当する関西支社の社員の合計約2,500名に対する健康管理業務を担当しています。

法令に定められている産業医の職場巡視、各種健康診断および医学適性検査の実施に加え、メンタルヘルス対策、生活習慣病対策、睡眠障害対策、感染症対策など、さまざまな施策に取り組んでいます。各施策の実施にあたっては、健康管理センターのスタッフ(産業医・保健師・看護師・臨床心理士・事務職)がプロジェクトチームを作り、連携して活動しています。

また、臨床心理士の相談業務は、適正な就業上の配慮・業務遂行能力の向上のため、担当産業医が必要だと認めた者に対して実施する産業医オーダー制をとっています。

一次予防から三次予防まで幅広く対応

2015年にストレスチェック制度が法制化されて一次予防に注目が集まっています。一次予防とは「病気の発生を未然に予防」する対策のことです。当社でも、職場環境などの改善は、メンタルヘルスに関わる問題を未然に防ぐことにとどまらず、組織の生産性を向上させることにもつながると考えています。

当社の職場環境改善活動では、毎年、担当産業医・保健師・臨床心理士のチームで職場に訪問し、管理者に対して職場単位で分析したストレスチェックの結果をフィードバックしながら、改善のための提案や相談を行っています。

二次予防では「病気を早期に発見し対処」します。新入社員や異動者など環境や立場が変わった社員、つまりハイリスクグループへのアプローチが中心です。当社では2019年4月に889名の新入社員が入社しました。新入社員は約2カ月間、研修施設で泊まり込みの集合研修を受けますが、入所時と退所時にストレスチェックを行ってストレス状況を確認しています。また、気になる社員には産業保健スタッフによる面談も行います。そして、配属後も継続的にフォローアップできる仕組みを整えています。

三次予防は「病気からの回復と維持」となり、休職者の職場復帰支援です。当社では臨床心理士が休復職を判定する委員会にも参加しています。また、休職から職場復帰を目指す社員に対して全例に心理検査を実施し、一定の基準を参考に社員の復帰判定をしています。私たちは、標準化された心理検査や構造化された面接を用いることで、評価者によってばらつきが少ない評価や治療的介入ができるよう努めています。

これらメンタルヘルスの施策は、臨床心理士の統計学の知識を活用してデータ化しています。社内研修の資料への活用や、今後の施策を考える際の根拠としています。所内からは説得力のある資料作りに役立っているという評価をいただいています。

企業の中で活かす臨床心理士の汎用性

臨床心理士の仕事は精神疾患の評価や心理療法など個人へのアプローチだけではありません。組織やグループといった集団に対するアプローチも可能です。私たちは、その専門教育課程で「過去・現在・未来」といった時間軸や「生物・心理・社会」といった多面的な視点から個人や組織を捉えるトレーニングを受けています。これらの視点は、人の心を扱うという幅広いニーズに応えるための「汎用性」という特徴につながります。

臨床心理士の業務のニーズは、時代の変遷や組織の成長・発展によって変わっていくもので、これまでの枠組みでうまくいかないような「隙間」にも対応できることが求められています。産業領域でいえば、企業の中で産業保健スタッフとして機能し、有機的な連携を行っていくためには、それぞれの企業風土に合った臨床心理士の専門性の発揮の仕方があると考えています。臨床心理士とすでに一緒に働いている、もしくはこれから働かれる皆さまには、どんどん意見をいただけるとうれしいです。その中で私たちはメンタルヘルスだけにとどまらない幅広い分野で役に立ちたいと思っています。

 

(取材・文 光島やよい)

 

*本記事は、弊社刊行『産業保健と看護』2019年11巻5号に掲載したものを転載・一部改変しております。『産業保健と看護』の詳細はこちら(メディカ出版ホームページに飛びます)

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