新型コロナウイルスcovid-19感染拡大によるメンタルヘルス支援|開業心理室の公認心理師ができること・していること

あやめ池カウンセリングオフィス
代表
宿谷仁美

日々刻々と状況が変わる中で

「不要不急の外出の自粛要請」が関西で大阪を中心に出されたのは3月中旬のことでした。筆者のオフィスは奈良県にありますが、電車で20分も行けば大阪です。通勤・通学・生活圏として日常的な場所なので、すぐ隣に危機が迫っている感覚がありました。

カウンセリングや心理療法は「不要不急」なのか。いや、不要不急ではない、むしろ生きるために必要なこと。このようなご時世だからこそ心をないがしろにしてはけないと考え、感染対策を取りながら開室していました。

そのころの相談・カウンセリングでは、どの方も「なんだか怖いですね」とやや遠いところの話のように、一応は話題になるくらいでした。ウイルスという目に見えないものに対する実感を伴った怖さは薄かったように思います。

一方で中国やイタリアなどほかの多くの国では「ロックダウン」「医療崩壊」といったショッキングなニュースが流れていました。しかし、数字と映像から恐怖は感じるものの、日本では家を一歩出れば日常とあまり変わらないにぎわいがありました。漠然とした不安や恐怖と楽観とが共存したアンバランスな状況にあったように思います。

そして、4月に入り緊急事態宣言が出され、状況は変わりました。

どんな相談が寄せられているのか、どう対応しているのか

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、筆者の相談室で今のところあらためて相談に来る方が増えてはいません。が、これまでに来られている方との面接の中ではいろいろなことが生じ、どうすることがクライエントにとって最善なのか、対応には非常に悩むものがありました。

プライバシーに配慮しながら紹介する承諾を得たケースを挙げます。

20代のAさん(週1回の心理療法を継続中)は、自粛要請の段階では「自分の周辺では感染者が出ていない。もし感染しても若いから大丈夫」と話し、面接の継続を希望していました。しかし、感染リスクを考慮すると対面での継続は難しいと考えました。

Aさんにはそのことを伝え、どうするのが最善か(休止/オンラインで継続/頻度を減らすなど)話し合いました。

Aさんは、初めは「そうですね」と受け入れる姿勢を示したものの、次第に怒り出し、「こんな面接が何の役に立つのか!」と帰ってしまいました。中断になるかもしれない思いが頭をよぎりましたが、これまでの関係性より、次も来られるだろうという見立てを持っていました。

次の回で、Aさんは、「先週はすみませんでした。でもすごく腹が立った」と話されました。

筆者との間でどういう思いが生じていたかを話し合いました。

Aさんからすると、自分はカウンセリングに来てもいいと言っているのに世の中の建て前的なルールを優先されて受け入れてもらえない、自分が大事にされていないと感じた。セラピストは親や他の大人とは違うと思いたかったけれど、結局きれいごとを言う大人なのだと、とてもがっかりした体験となったようでした。

しかし、これまでそういった局面では相手との関係を切ってきたAさんでしたが、今回はそれを筆者に伝えようとしたことが大きく違うところでした。

Aさんのように、面接をどうするかという方法の話だけでなく、その話をすること自体がその人にとってどのような体験となっているのかを考えると、何らかの関係性の再演として見ることができます。セラピープロセスの一部としてとても重要であると思いました。

子育て支援関係の相談ケースでは、

・子どもが小さく、ウイルスのことや手洗いがまだよく理解できていない。どう教えたらいいのか?
・子どもが家の中だけで過ごすのはしんどいが、公園に行ったら誰もいなくて罪悪感がある。外出したいけど人目が気になる。
・もう何週間も子どもと家で過ごすのが疲れた。子どももかわいそう。子どもがはしゃぐとイライラしてしまう。つい怒鳴ってしまうこともある。
・人に会わないと大人と話す機会がないので、誰かと話したい。子どもとだけしか話さない日もある。
・実家に帰りたいのだけど、両親に帰ってくるなと言われた。

など、要請されることを守ろうとするがゆえの苦悩が見られました。

子どものことを考える難しさ(メンタライズ機能の低下)もあるようです。それは、大人でも、不安でピリピリしている中ではある程度は仕方のないことのように思われます。関わろうとするからこそのイライラや疲れであり、どれも通常ではない事態に対するその人らしさが反映された反応です。そのことを考慮してアドバイスを行っています。

開業心理室として気をつけていること:感染対策と孤立しないこと

開室しているときは、できる限りの感染防止策に努めてきました。

距離を取る(座る位置)、換気、ドアノブやテーブルなど触る部分のアルコール消毒、手指洗い、マスク着用。玄関には消毒スプレーを置き、来室時・退室時に使用いただく。互いに体調が少しでもよくないときには休むことを前もって話し合うなど。

小さな開業臨床の場であり、外的現実と内的なものをどう判断して対応するのか、はじめは思考停止状態でした。

判断にあたって、同業の友人、SNSでの同業者とのつながり、研修グループ、研究会仲間、スーパーバイザーなどと話せる関係があることが、筆者の支えとなっています。

見通しがつかない、つけられないことに対する不安や、見えないものに対する恐怖の感覚が、どこか他人事のようで自覚しにくくなっている。実は疲弊して不安定になっており、ともすると思考が働かない状態に陥っている自覚を持つ。そして、「クライエントにとって何が最善であるか」を軸に置きながら考えることを共有してきました。

「分断された状況の中、私たちが孤立しないこと。クライエントとのつながりをどう維持するか。同業者とのつながりを持ち、考え続けること」と言われた言葉がとても支えとなっています。

公認心理師としてできること・していること

いろいろな学術学会や機関から、声明、留意点、啓発的なメッセージが発信されています。一般の方を対象としたものもあれば、心理職自身のガイドラインとなる指針もあり、一通り目を通しています。

相談に来られる方を待つ現場(開業オフィス)と、自ら出て行って関わる現場とを筆者は持っていますが、アウトリーチの現場では、それらの情報を紹介したり、自身もメンタルヘルス支援を目的としたお便りを複数作成したりしています。

心理職は多くの場合、職場ではマイノリティです。他職種の職域と重なる部分を感じながら、心理の専門性を意識しています。リエゾン的なつなぐ役割をすることもあれば、不安定で不安の高い状況において生じる集団心性の視点から、組織が今どういう状態であるのかを見立て、介入していくことも考えます。

刻々と状況が変わる中で判断しないといけないことが多く、その判断が最善かどうか、自信を持てるものばかりではありません。それゆえに、「クライエントにとっての最善とは何かを第一に考える」を軸に判断し、また考える、仲間と話し合って振り返ることが、今とても重要だと思っています。

 


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