新型コロナウイルスcovid-19感染拡大によるメンタルヘルス支援|精神科の公認心理師ができること・していること

精神科における新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、病院は通常業務の縮小や医療スタッフの配置転換など緊急対応を余儀なくされています。精神科の診察やグループ療法にも影響が生じ、十数人で行うグループ療法は「3つの密」の観点から中止や延期の対応を取っています。

心理面接やリエゾン業務も今後縮小が予想され、通常診療をどこまで維持できるのか先行きは不透明です。患者さんの不安感も高まっており、感染を警戒して、グループ療法や家族会、自助グループへの参加をキャンセルする人々が増えています。

新型コロナウイルスの影響は、精神科にも拡大しています。

精神科における公認心理師匠の対応

新型コロナウイルス感染拡大に関する不安の声が聞こえる中、患者さんはグループ療法や各種プログラムが中止になることにも不安を抱いているようです。

患者さんによっては、ほかの患者さんにかかわることや通院することが唯一の社会活動である場合もあり、「中止になると他人や社会とかかわる機会がなくなる」との声も聞かれました。

そこで筆者が勤務する病院では、診察に加え、グループ療法やリワークプログラム、家族会などをオンラインで実施する準備を始めました。

診察や各種プログラムをオンラインで行うことはスタッフにとっても初めての経験ですが、欧米ではオンラインでの心理療法1)やグループ療法2)の効果が示されており、インターネットを使った新たなスタイルが検討されています。

筆者を含めた公認心理師と医師が試験的に家族会をオンラインで実施したところ、参加者の表情を把握する難しさがあり、双方向のコミュニケーションにも工夫が必要でした。しかし、遠隔地に住む方や体の不自由な方など、さまざまな事情で今まで家族会に参加することができなかった患者さんやその家族に参加してもらうことができました。

今後も状況に応じて、これまでとは異なる形式であれ、患者さんのニーズと感染予防を考慮した対応を行う予定です。

精神科以外の患者さんのケア

病院で働く公認心理師には、身体科の患者さんへの危機介入も求められています。

基礎疾患がcovid-19による肺炎の重篤化要因であることが連日報道され、身体疾患を有する患者さんやその家族は「コロナ疲れ」に陥っています。そういった方々に対して、リラクゼーション法や呼吸法などの即時的なストレスマネジメントを提供することも公認心理師の役割です。

基礎疾患のある患者さんとその家族は、重篤化を恐れ、covid-19の最新情報を積極的に得ようと努力されています。ただ、感染者数や死亡者数が増加していくニュースに常に触れることは気分の落ち込みや不安感を高めます。中には精神科的症状を呈する一歩手前の段階にいる人々も見受けられます。

そこで、公認心理師はWHOが提唱しているように、情報収集は1日1回決まった時間に信頼できるリソースから行うなど3)、心の健康を守るための簡単な情報提供も行うようにしています。

医療スタッフへの精神的ケア

患者さんや家族の精神的な負担が増え続ける中、医療スタッフもギリギリの精神状態で治療に当たっています。

特に、ICUなどの最前線で治療に当たる専門スタッフは、長時間極度の緊張状態の中で治療に従事し、イギリスの報告ではPTSD様症状を呈する医療スタッフも増えてきているようです4)

最前線で働く医療スタッフは「周りが一生懸命治療に当たっているときに弱音を吐いてはいけない」と不安な気持ちをため込む傾向にあるようです。そのため、公認心理師が気持ちを受け止めるかかわりが求められています。今の状況では直接会って思いを傾聴することは難しくとも、電話やオンラインを通してなど、できることはあります。

当院の隣接する病院では、医療スタッフ専用の相談窓口や専門ダイヤルを開設しました。非常に多くの相談が寄せられ、精神科医や公認心理師を補充して対応に当たっているそうです。

また、残念なことに、医療スタッフの家族への偏見や差別も増加しているため、今後は医療スタッフの家族を含めた心の支援も必要になってくるでしょう。

公認心理師の社会的役割

社会の中で公認心理師が今できることは二次被害の予防です。公認心理師の職務には「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと5)」と定められています。
学会などもそれぞれの専門性を生かして社会に発すべき声明を提言している最中ですが、このような緊急事態において多くの人々の心の健康を守るためには、公認心理師1人1人が正しい知識を学び、それぞれのコミュニティで発信することです。

公認心理師が日々さまざまな人にかかわります。高齢者、小さな子どもを持つ家庭、精神疾患を有する方など、それぞれにコロナ禍での課題があり、対策が必要です。

公認心理師1人1人が担う社会的役割は、非常に大きいものだと思われます。

 

引用・参考文献
1)Webb, CA. et al. Internet-Based Cognitive-Behavioral Therapy for Depression : Current Progress and Future Directions. Harv Rev Psychiatry. 25(3), 2017, 114-22.
2)Schuster, R. et al. Effects, Adherence, and Therapists’ Perceptions of Web- and Mobile-Supported Group Therapy for Depression: Mixed-Methods Study.J Med Internet Res. 21(5), 2019, e11860.
3)World Health Organization 2020. Mental health and psychosocial considerations during the COVID-19 outbreak. 2020. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/mental-health-considerations.pdf(2020年4月閲覧)
4)Nuala McCann. Coronavirus : The PTSD risk on the Covid-19 front line. BBC News NI. 2020. https://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-52245997(2020年4月閲覧)
5)厚生労働省. 公認心理師とは?. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html(2020年4月閲覧)

 

(文・ライター/公認心理師 洲脇利広)

 


あわせて読みたい

新型コロナウイルス感染症に対応する支援者のメンタルヘルス関連情報

▼緊急企画:新型コロナウイルスcovid-19感染拡大によるメンタルヘルス支援
ダイハツ工業株式会社における新型コロナウイルス対策とメンタルヘルス支援
総合病院の公認心理師ができること・していること
開業心理室の公認心理師ができること・していること
学生相談室の公認心理師ができること・していること
休校中の子どもに公認心理師ができること・していること
福祉施設の公認心理師ができること・していること

 

関連記事

本サイトについて

公認心理師になるには

本サイト・メール広告をお考えの方はこちら

ライター希望の方はこちら

ページ上部へ戻る