確かな心理支援の技術をもち、新たな分野を切り拓ける心理職を

公益社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下JOT)では2021年度中に臓器移植ドナーの家族のケアを専門に行う「家族支援センター」を設立させ、同センターには臨床心理士の配置を予定している。今回、同法人事業推進本部の林 昇甫さんに、ドナーの家族支援という新たな領域でどのような支援を必要としているのか、そして心理職に求められる役割をうかがった。

―― 日本の臓器移植に関する状況をあらためてお聞かせいただけますでしょうか。
 臓器移植の対象となる方は、移植を受けなければ助からない患者さんです。現在、日本国内では約15,000人の患者さんがJOTに登録しています。2019年は120件ほどの臓器提供が行われました。

JOTはいわゆる臓器移植法で定められた日本唯一の臓器あっせん機関です。JOTではこの約15,000人の患者さんの臨床データなどを預かり、制度的、医学的な観点から臓器提供に至るまですべてのマネジメントを行っています。

日本は諸外国よりも、臓器提供を希望される患者さんに比べ提供件数がかなり少ないという現状があります。そのため、国民へのさまざまな普及啓発や、医療機関における臓器提供体制整備の支援なども日常業務で行っています。

 

―― 臓器提供の流れを教えてください。
 臓器提供の流れとしては、ドナーとなりうる方が現れ、ご家族が臓器移植の説明を受けることを希望された場合に、JOTに第一報の連絡が入ります。その後、JOTから臓器移植コーディネーター(以下コーディネーター)数名を病院に派遣し、臓器提供について説明し、ご家族と話し合いを行います。最終的にご家族の総意が確認できた場合に承諾書を作成し、臓器提供をしていただくこととなります。

 

―― 臓器移植における心理職の役割・必要性について、お考えをお聞かせください。
 現在、JOTに所属している心理専門職はいません。コーディネーターの7割が看護師です。この点を踏まえた上で、心理専門職の必要性についてお話しします。

臓器提供される方々は、さまざまな背景をもつ脳死の患者さんです。脳死に至った理由をみると、心筋梗塞など内因性の疾患によるもの(58%)、事故などの外因性によるもの(25%)、そして自死・自殺によるもの(17%)に大別されます。

脳死になってしまった患者さんやご家族の背景や思いを想像してみてください。ある日突然帰らぬ人となってしまって、病院に呼ばれてかけつけたら脳死と判定され、いきなり「臓器提供はいかがしましょうか」と聞かれる。これは非常に残酷なことですよね。

多くの場合が救急の現場になりますので、スピリチュアルな部分も含めてフォローアップできる環境がない場合も多く、ご家族の心理面への配慮が不十分になりがちです。急性期終末期での意思決定となるので、ご家族はどんどん追い込まれ、コーディネーターに会ったとたん、声を荒げる方もおられます。そのような心理状態のご家族に、どのようなサポートができるのか、私はずっと考えてきました。なかには、JOTのコーディネーターが長期的にご家族の方とかかわっていくというケースもあります。しかし、コーディネーターの多くが看護師経験者とはいえ、心理面での専門的なケアには限界があると感じています。そのため、死因なども考慮したご家族の心理状態を見極め、心理面で必要なケアプランを検討し、時に病院にいる臨床心理士とも連携し、提供後の長期的フォローも担う、ドナーコーディネーションに関わる臨床心理士としての新たな役割に期待しています。

これまで臓器移植ではドナーやご家族の心理面にあまりスポットが当てられてきませんでした。今後、臨床心理士の視点や技能を取り入れながら、臓器移植コーディネーターとともにより細やかな家族ケアに取り組んでいきたいと思っています。

 

―― 「家族支援センター構想」には専門の臨床心理士の配置を想定しておられますが、どのような役割を担われるのでしょうか。
 心理面の専門職としてチーム医療の中で力を発揮してほしいと考えています。患者さんやご家族の抱える苦悩は決して一つではなく、対峙する医師や他の医療者によっても内容を選んで発言しますし、状況や日によっても少しずつその訴えが変化することはよくあります。全く同じ言葉で表現された精神・心理的な苦痛であっても、医師や看護師、心理士など、職種によってその捉え方や視点も変わってきます。患者さんやご家族に対してより細やかなケアを行うためには、それぞれの職種の視点からアセスメントを行い、それぞれの情報を持ち寄り、プロとして多角的・総合的に検討することが必要なのです。今後、臨床心理士には、防衛機制の概念などを取り込んでいただき、専門的な視点からのアセスメントを行っていただきたいですね。

 

―― 「家族支援センター構想」の心理士の具体的な職務内容を教えてください。
 心理士の職務内容としては、大きく分けて「現地業務」と「長期フォローアップ業務」の2種類を想定しています。

現地業務では、まずは自死・自殺の事例と小児臓器提供事例の2つのケースを主に、臓器移植コーディネーターとともに病院に行ってもらうことを考えています。コーディネーターとともに面談を通して、臓器提供を決断されたご家族に対してしっかりとアセスメントしていただき、必要に応じて提供医療機関側の心理スタッフとの架け橋となってもらいたいと思っています。

心理専門職の方々に期待している長期フォローアップ業務としては、臓器提供されたご家族に対する傾聴を主としたサポートカフェや、たとえば自死・自殺の患者さんのご家族など同じ立場として臓器提供を経験した際の想いを共有いただくグループサポートの運営などになります。さらに、こうしたカフェやグループサポートを通して、ご家族のアセスメント情報を担当コーディネーターにフィードバックし、コーディネーターと協議しながら、ご家族へのケアプランのよりきめ細やかな見直しを図れる体制を目指したいと思っています。

現実問題として、臓器提供が行われた後、ご家族と提供病院との接点は途切れてしまいます。病院側も数年に1度あるかないかの臓器提供である場合がほとんどですから、院内で医療チームなどの長期フォロー体制を作ることは現実的ではありません。こういった事情から、現在の日本で長期にわたってご家族をフォローできるのはJOTしかないのです。

とはいえ、たとえば先ほど述べたサポートカフェにしろ、グループサポートにしろ、ご家族には物理的な移動が伴うため、すべてのご家族にいつでも気軽に使っていただくことはできません。また、臓器提供されたすべてのご家族が必ずしもサポートを必要としているわけでもありません。どのような方にどういった支援が届けられるのか、正解のない中でともに考えていくことができる仲間として、臨床心理士の方々と協働していきたいと考えています。

最後に、臨床心理士が専門性を発揮することで、臓器提供の現場だけでなく、急性期終末期の現場でも多職種によるチームケアが活性化し、好循環が生まれるきっかけになればと願っています。心理士が業務内で得られた情報を多職種内で共有することで、「この患者さんにはこんな側面もあったのか」「心理士がいるとこんなところにも着目してくれるのか」と新たな気づきが生まれ、チーム全体としてケアの質が向上する。そのような好循環ができればよいなと思っています。

 

―― どのようなスキルや人柄が臓器移植に関わる心理士に求められるでしょうか。
 病院内での臨床経験が豊富であることは必須です。特に緩和ケアチームなどの医療チームに属し、多職種カンファレンスの参加や具体的なケアプランの立案経験があるなど、資格よりもこれまでの知識や経験に期待しています。臓器提供の現場では全く知らない医療機関に足を踏み入れることになりますので、病院という独特な環境に入ったときに物怖じしないぐらいの経験があることが大切です。現場の医師や看護師とスムーズなコミュニケーションを図り、心理専門職としての理念と、ご家族に対する悲嘆も含めたアセスメント技術もあること。求めすぎかもしれませんが、特にJOTに最初に入職する方々については、臓器提供に携わる心理専門職のパイオニアとして、日本中の臨床心理士に方向性を示していけるような力もあればいいですね。

職場環境については、指揮命令系統や他職種とのすみ分けなど、心理士の方が働きやすいように整えていきたいと思っていますので、ぜひ、専門性を十分に発揮していただければと思います。

 
引用・参考文献
1)公益社団法人日本臓器移植ネットワーク.臓器提供の流れ.https://www.jotnw.or.jp/explanation/02/04/(2021年10月19日閲覧)
 
(インタビュー・文:臨床心理士・公認心理師 上田 翠)


林 昇甫 Hayashi Shouho
公益社団法人日本臓器移植ネットワーク事業推進本部 本部長
平成6(1994)年卒業。研修医・レジデントを経て、大阪大学医学部第2外科に入局し、生体肝移植の立ち上げに従事。その後、市立豊中病院で肝胆膵外科医長を務める傍ら、緩和ケアチームを立ち上げ、緩和ケアチーム長を兼任。豊中市域の地域緩和医療体制の構築をはじめ、国が推進するPEACEプロジェクト等数多くの緩和ケア研修事業の立ち上げに従事。平成22(2010)年、厚生労働省健康局がん対策推進室にてがん医療専門官として着任後、第2期がん対策推進基本計画の主筆担当として「臨床心理士」を明記。この際の経験から心理士の国家資格化は重要なゲートウェイだとし、後に公認心理師の国家資格化にも尽力。
行政在籍中は内閣官房医療イノベーション推進室(現健康医療戦略室)、厚生労働省大臣官房厚生課学科・課長補佐、文科省研究振興局研究振興戦略官付・企画官などを歴任。その後、平成27(2015)年「Office Hayashi for Medical Innovation Design Works」を起業、医療機器や製薬関連企業の研究開発支援からエンタメ業界における数多くのドラマや映画などの医療監修を手掛ける。平成29(2017)年より公益社団法人日本臓器移植ネットワークの依頼より、組織・事業改革を手掛けている。

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