家族の「羽化を支える」周産期心理士の役割(後編)

前編は新生児集中治療室(以下NICU)での業務を中心に、加古川中央市民病院の岡田由美子先生に話をうかがった。後編となる今回は、岡田先生が周産期医療に関わるきっかけとなった心理士との出会いや、周産期心理士ネットワークについてお聞きした。

 

―― 先生が周産期・新生児医療と関わるようになったきっかけを教えていただけますか?

岡田 私はもともと小児科専属の心理士として非常勤で働いていました。当時は発達検査を多く行っており、そこで得たデータを学会で発表しました。同じ学会では、NICUの心理職の先駆的存在である、橋本洋子先生、玉井真理子先生らの発表があり、そこで意見交換する場を持つことができました。

そのころ、私は家族が赤ちゃんの医療を拒否するいくつかのケースに直面していました。医療が必要な赤ちゃんなのに、なぜ家族は診察を拒否するのだろう。理由が分からず、戸惑いました。

ですが、しばらく後にその家族の一組と再会したとき、ごく普通の方々だと感じました。なぜ普通の家族があれほどまで医療を拒否せざるを得なかったのだろうか、理由は何だったのか……。

そんな折、橋本先生らの発表に触れ、周産期は特別で危機的な時期なのだと痛感したのです。クリティカルポイントなときだからこそ、家族の傷つき、葛藤を少しでもサポートできる心理職が必要なのだ、と。

 

―― NICUの心理職の必要性を感じさせるエピソードですね。周産期に携わる心理士は、最近では増えているようですが。

岡田 私が病院で心理職の仕事を始めた30年ほど前は、心理士が何でも屋だった時代です。小児科だけでなく精神科、職員のメンタルヘルスなど、さまざまな領域からのオーダーがきました。ここは意識改革が必要でした。

他領域からのオーダーには、その領域に応じた心理職を採用してもらうよう働きかけました。この作業の繰り返しが、当院の心理職の門戸を広げることになります。

現在当院では、小児科だけでなく、精神科や緩和ケアチームなど複数の診療科で専属の心理士が働いています。

今は医療全体をチームで診ていくことが、国の施策となっています。心理職へのオファーも自然な流れです。私からすれば隔世の感がありますが、多くの心理職が拓いてきた結果です。医療現場においても心のケアの重要性は「文化」となりつつあるのかもしれません。

 

―― ほかの専門職との情報共有も不可欠ですね。共有する際に工夫されていることはありますか?

岡田 周産期の心理職は、面接を中心に働くというより、立体的に家族を見立てて動くことが求められると思います。

医師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、理学療法士、精神保健福祉士など、NICUにはさまざまな専門職がいます。日ごろからアンテナを立てながら、ほかの専門職と情報を共有していくことは不可欠です。カンファや立ち話を通して伝えたり、カルテに残したりするなど、地道にコツコツと回数を重ねています。

私は、互いの情報を共有するうえで、重なり合う支援を行うことを重視しています。パイを切り分けるように分担するのではなく、身体や家族、社会などを視野に入れて総合的に支援すること。重なり合う支援ができると、ネットワークがつながり、サポート体制に厚みが出ます。

NICUにいる赤ちゃんは脆弱で、簡単な支援では対応しきれません。家族にも赤ちゃんにも危機的な時期です。それだけに何層にも重なり合いながらの支援を行わないと、乗り越えられない。

先ほどもお話ししましたが、家族が現実を受け入れることには困難が伴う場合があります。

赤ちゃんが生まれると、一度、家族のバランスは壊れます。壊れてから、再生する。新しい命を受け入れていくことで、新たな家族になっていきます。夫婦が親になり、きょうだいが兄や姉になっていく。ところが、その赤ちゃんが病気で家族に喜びよりも心配をもたらす存在になってしまうと、受け入れたい気持ちと同時に受け入れがたい気持ちがでてきてしまうのも、当然だと思います。

家族が新たな命を「私たちの赤ちゃん」と感じていくことができるよう、五感を生かして伝えるのが心理職の仕事です。私は、臨床の実感から「岡田理論」(笑)で動いています。

 

―― 「岡田理論」は、先生が構築された理論でしょうか?

岡田 はい、私の実体験から構築した理論(笑)。臨床実感です。「寄り添う」でなく、「付き添う」支援を基本に考えています(前編参照)。

家族と一緒に赤ちゃんに会うとき、私は「こっちを見たね」「あいさつしてるね」と、赤ちゃんの行動を意味づけて言語化していきます。その際に「付き添う」、つまり少し距離を保ちながら接するように心がけます。心理職としての五感を発揮するには、この微妙な距離が必要です。

そして、赤ちゃんの行動の意味を想像して家族に伝える。このやり取りを繰り返していくうちに、ベストなタイミングで赤ちゃんが反応することがよくあります。そこを素早くキャッチして、「赤ちゃんはお母さんを分かっているね」「ありがとうって言ってるみたい」と声をかける。

「岡田理論」にはデータも科学的根拠もありません(笑)。もちろん、発達や新生児の行動について学習は必要です。しかしそこにあるのは心理職としての想像力です。眠っていても、目を閉じていても、私たちは常に赤ちゃんに見られているのだと想像する。家族には医学的根拠だけでなく想像力を使って赤ちゃんと接してもらいたいと考えます。人と人とのつながりは、そこからスタートしていくのですから。

 

―― 病院内でのつながり、さらには心理職同士のつながりも不可欠だと思います。先生は「周産期心理士ネットワーク」の初期のメンバーのお一人でもあります。

岡田 発足当時は6人でスタートした「周産期心理士ネットワーク」ですが、現在は200人を超える団体となりました。入会資格はNICUに関わっているか、関わったことがある人。これからやってみたいという人には申し訳ないですが、ほかの研究会を紹介し、研鑽を積んでから入会いただいています。

ネットワークではグループスーパービジョンを行っています。全国を7地区に分けて、現在はコロナ禍のため、オンラインで実施しています。1回5時間程度で、前半は全員が自分のことを話していきます。守秘義務を守りながら、自分がそのケースにどう対応したのか、どんな思いだったかなど、全員で共有します。講師は立てず、発表者一人ひとりがそれぞれに語ることで、その場の全員が刺激され、自分の思いを深め、共感する。今ここで起っていることに耳を澄ませる時間です。

後半は一つのケースを検討します。今まで出会ったことのないケースを聞かせてもらいながら、臨床の幅を広げる。心理士としてどう思うのかを話し合うだけでなく、それぞれの施設環境の違いなどを共有することで、新たな方策に気づく作業にもなります。

 

―― 心理職とは研鑽を重ねる作業の連続だと感じます。NICUで働きたいと考える公認心理師に必要な力とは何でしょうか?

岡田 NICUはとても変化のテンポが速いのです。赤ちゃんは自分の状態を話すことができないし、刻々と変化します。重要な変化が起こったときに、家族がどう思うのか、見立てて想像する力も必要です。

このためにも観察力と想像力、その両方が不可欠ではないでしょうか。日ごろから勉強会に入ったり、研修に出席するなど、アンテナを張ったり、研鑽を積んでいただきたいですね。

公認心理師の会も各県で設立されています。積極的に勉強会に入っていく、時には自身で立ち上げるなど、問題意識を持ってご自身の幅を広げる意欲が必要でしょう。

自己研鑽を重ねて、自分で拓いていくことがより良い臨床につながっていくのですから。

 

(インタビュー・文:公認心理師・臨床心理士 なかにしいくこ)


岡田由美子 Yumiko Okada
地方独立行政法人 加古川市民病院機構 加古川中央市民病院 小児科
臨床心理士
周産期心理士としてNICU、小児科、産科にかかわる。周産期医療体制整備指針における周産期センターへの臨床心理士の配置にも尽力。周産期心理士ネットワークの常任運営委員として、全国の周産期心理士の情報共有やスキルアップにも携わる。

*周産期心理士ネットワークのホームページはこちら

 

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