開業カウンセリングルームの公認心理師
- 2020-6-11
- 心理職で働く
なぜ開業したのか
筆者は精神科のクリニックに勤務して24年になりますが、2年前にカウンセリングルームを開業しました。クリニックに勤め始めてから5年間は常勤職員として、アルコール依存症の家族や引きこもり、不登校、うつの患者さんのカウンセリングや心理検査、グループワークなどを担当しました。第1子出産後は非常勤職員となり、3人の子育てと両立してきました。
開業を決めたきっかけは2つあります。1つは、クリニックでのカウンセリングで、「この人にもっと早いタイミングで会いたかった」と思うケースがしばしばあったこと。もう1つは、メンタル不調に対する偏見や誤解から、受診の時機を逸してしまう家族を、子育て中に多く見てきたことです。
日本ではまだ、精神科を受診するハードルは高く、偏見もあります。カウンセリングも、「問題のある人が行くところ」というイメージが定着していて、抵抗のある方が多くいます。
そのような状況を見ているうちに、「気軽に通えるカウンセリングルームを作りたい」「未病の人たちに向けて発信したい」気持ちが大きくなったのが、開業した理由です。「カウンセリングルーム」ではなく、「こころサロン」と名付けたのも、気軽に利用してほしい思いからです。
どんなことを行っているのか
筆者の1週間です。
午前 | 午後 | |
月曜日 | 休日 | |
火曜日 | 事務仕事・SNSの発信など | |
水曜日 | 心理検査・カウンセリング | |
木曜日 | 心理講座・カウンセリング | |
金曜日 | 心理講座・カウンセリング | |
土曜日 | カウンセリング | カウンセリング |
日曜日 | 休日 |
こころサロンでの仕事 | クリニックでの仕事 |
ここでは開業サロンでしていることを紹介します。
① 未病の方に向けた心理講座
「ジブンカウンセラーになろう!」というテーマで、心のセルフケアの方法をわかりやすく伝えています。
② カウンセリング
セルフケアでは解決できない問題について、個別のカウンセリングを提案し、サポートしています。
③ 異業種とのコラボレーション
結婚相談業の方やキャリアコンサルタント、ベビーマッサージやアロマテラピーの専門家などとコラボレーションし、心理師をより身近に感じてもらう取り組みを行っています。
開業するにあたって備えておくべきこと
心の専門家として、精神療法や心理検査の技術を高めるのはもちろんですが、ここでは開業するときに役立つことを4つ紹介します。
① 自分のできること・できないことを明確にする
病院や学校では、クライエントをチームで支えることができますが、開業した場合、一人で支えなくてはいけません。そのため、自分の力量をきちんと把握して、できることと、できないことの線引きをしておく必要があります。紹介先となる横とのつながりも大切です。
② 集客スキル
開業した心理師が最も頭を悩ませるのは集客ではないかと思います。大学の教員や執筆歴のあるような著名な心理士であれば、紹介やウェブサイトだけでも集客できるかもしません。しかし、大半の心理士がそうではありません。ただ開業しただけでは、クライエントは来てくれません。
筆者の場合は、ブログやSNS(Instagram)などを活用し、ラジオ出演や講演活動も行いながら、集客につなげる取り組みをしています。
③ 心理学以外の「強み」を持つこと
開業をしてみて一番びっくりしたのが、「〇〇カウンセラー」という名称が、臨床心理士や公認心理師以外にとてもたくさんあることでした。詳しく知らない方からすれば、みんな同じ「カウンセラー」です。
その中で目に留めてもらうためには、肩書き以上の「強み」が必要です。筆者の場合は、3人の子育て経験を「強み」として打ち出すことによって、子育て中の女性が多く来てくれています。
④ 異業種とのつながり
開業すると、心理師の仕事以外の業務がたくさん出てきます。経理や集客、宣伝活動、事務仕事など、多くのことを一人でこなさなくてはいけません。そんなとき、異業種の方とのつながりがあると心強いです。
各地で異業種交流会なども開かれていますので、人脈づくりをしておくことをおすすめします。
開業してよかった点・課題・展望
開業してよかった点はいろいろありますが、一番は「自分が会いたいクライエントに会える」ことです。
筆者は、「心の病気とまではいかないけれど、悩みを抱えている未病の方」「幼少期の親との関係を引きずって、つらい人間関係を繰り返してしまうAC(アダルトチルドレン)の方」「自分の生き方を見つめ直したいと思っている方」に向けて発信しています。カウンセリングに来られるのもそれらの方がほとんどです。
一人でできるカウンセリングの数には限りがあるため、自分が来てほしいクライエントに、ピンポイントで情報を届けられるのはとてもうれしいことです。
開業して2年が経ちましたが、やはり、「カウンセリングへの抵抗感」がある人が多いと感じています。今年は、さらに足を運んでもらいやすくするための工夫として、「悩みを話せるソーイング教室」もオープンする予定です。
自分のアイデアでいろいろなことに挑戦できるのも、開業の楽しさの1つです。
(文・構成 こころサロン創 臨床心理士 公認心理師 佐瀬りさ)