心理職で働く|児童福祉分野に転職したい方が押さえておくとよい5つのこと

児童福祉分野の心理職

児童福祉分野の心理職の活躍の場としてよく知られているのは、児童相談所や市町村の虐待対応窓口です。それだけでなく、児童養護施設、児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)、児童自立支援施設等の社会的養護を行う施設、保育所や子育て支援センターなどが挙げられます。虐待対応を例にとると、虐待を受けた子どもへの直接的な支援はもちろん、市町村単位の地域レベルでの虐待防止の必要性から、児童福祉分野での心理職の活躍の場は近年広がっている印象です。

児童虐待に関しては、2019年の法令改正により、2020年4月から改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が施行されます。体罰の禁止が盛り込まれ、児童相談所においては一時保護と相談対応をする部署が分けられます1)。厚生労働省は2019年度から児童相談所の児童福祉司と児童心理士などを増員する方針を掲げています2)

今後は、人手という量だけでなく質の担保が課題となるでしょう。その担い手の一つとして、心理の専門職である公認心理師への期待が高まっています。

筆者は児童相談所と、市の虐待対応の部署での勤務経験があります。今回は、その経験もふまえて、児童福祉分野で心理職として働く前に押さえておくとよいポイントを5つ挙げます。

児童福祉分野の心理士として働いてみて

児童福祉分野は「責任が重たくて大変そう」とイメージされがちです。

筆者も大学院での実習で、もっとも難しさを感じたのが、児童福祉の領域でした。施設で出会った子どもの一挙一動に「何と言えばよいのか、どう対応するべきなのか」と一番悩んだ実習でした。実習や文献学習を通じて子どもたちのこちらを困惑させる言動の背景にはこれまでの育ちでの傷つきがあると知り、何かできることはないかという思いから、卒業後の就職先として児童福祉の分野を選びました。

実際に働いてみると、日常的に出会う事例の深刻さや、多忙さに圧倒され、子どもたちへのケアや保護者の支援も思うようにできず力不足を感じることが多くありました。しかし、行政という立場で子どもの権利を守り保護者を支援できる点は児童福祉分野の魅力でした。

児童福祉分野で押さえておきたい5つのこと

① 児童福祉に関連する法律を押さえておく

筆者が児童相談所で最初に受けた研修は児童福祉法に関することでした。一時保護や施設措置などは大きな権限であり、その根拠はすべて法律に基づいています。法で定められた一連の流れに基づき、自分はどこに関わっているのか把握しておくこと、目の前の子どもにどのような選択肢があり、支援者として何ができるか想定することが求められます。

もちろん実際に働いて分かることもたくさんあると思いますが、日々の業務に追われるとじっくり法律の文献をあたる時間はなかなか取れないものです。筆者の場合は、業務で「(児童福祉法の)第〇条」と出てくるたびに、それが何を指すのか、そのつど法律の条文を確認していました。

児童福祉法や児童虐待防止法、少年法など関連する法律は一度整理しておくとよいでしょう。改正も多いため、厚生労働省のホームページなどで最新の情報にもアンテナを張っておくことが大切です。

 

② 精神疾患や発達障害、トラウマについての生きた知識

福祉分野において、どの職場でも共通して求められるのは、精神疾患、発達障害、トラウマなどに関する生きた知識です。

筆者が児童相談所に勤務して間もないころ、他職種の方から、「(子どもに処方されている精神科領域の薬について)これは何の薬?」「双極性Ⅰ型とⅡ型の違いって何?」と聞かれてうまく答えられずに情けない思いをしたことがあります。心理職として分かった気になっていても、とっさに他職種の方が分かるように説明することはできないのです。経験と知識が必要です。

ある保育士さんは、精神疾患を持つ保護者への面接で気をつけることを心理職から教えてもらって役に立った、と話してくれたことがあります。精神疾患や発達障害を持つ保護者や子どもへの接し方のポイントや、トラウマによる反応を見分ける視点を伝えるなど、ほかの専門職の後方支援も心理職には求められるでしょう。

 

③ 職場でどんな専門性が求められるか把握しておく

所属する機関によっても、求められる専門性は違います。

たとえば、ワンストップの機関なのか、社会的養護の施設なのか、または子育て相談の機関なのか。期待される役割はそれぞれで少しずつ異なります。

アセスメントにしても、子どもの発達や性格全般だけではありません。一時保護の緊急性がどの程度なのか心理職の立場から意見を求められることもあれば、児童養護施設などで生活を共にする職員である場合は、「この問題行動にどう対処するのがよいか」といった生活に即した見立てが心理職に求められることもあります。

子育て相談では、虐待予防の役割が期待されることも多く、その場合には保護者支援のカウンセリングや乳幼児の子育ての知識が必要です。ここ数年、トラウマインフォームド・ケアの概念やエビデンスに基づくトラウマ治療・予防も広がっています。

自分が児童福祉の何に携わりたいのか(心理的な治療なのか、ケースワークの視点からの支援なのか、未然防止なのかなど)を明確にして、転職先を選ぶと、より実りあるものになると思います。

 

④ アセスメントや面接の技術の応用

児童福祉分野では、生活全般を見るケースワークの視点が必要とされます。

発達の問題や親子関係だけに焦点を当てるのでなく、目の前の子どもがどんな生活環境のなかで、どのような24時間を過ごしているのか、保護者はどんな育ちをして現在に至るのか。情報収集しながらアセスメントすることが求められます。

家庭訪問で子どもや保護者とお会いして、面接やアセスメントを行う機会もあります。施設では、生活を共にする職員という立場で日常を過ごしながら、心理面接という非日常の時間を設定する難しさもあります。

心理職が一人だけの「一人職場」であることも多く、経験の浅いうちは、困難を感じることも多いかもしれません。学校などで学んだアセスメントや面接の技術を応用していくことは特にそうでしょう。安全に、効果的にアセスメントや面接を行っていくためにもスーパーバイザーへの定期的な相談の機会を持つとよいでしょう。

 

⑤ 自分の特徴を認識しておく

児童福祉分野では、暴力やネグレクトなど、過酷な状況や出来事を見聞きすることが少なくありません。

身体的暴力や性暴力のケースに直面したときに、心理職自身の怒りや不安といった情動が刺激されることがあります。動揺のために冷静に判断できなかったり、逆に自己防衛から思考停止して事態を過小に評価してしまったりと、客観的に捉えることが難しい場合があります。

自分はどんなときにどんな反応が出やすいのか、まず自覚しておくことが重要です。自覚することで、ケースを客観的に俯瞰し、そのときに心理職として取るべき行動を選択することができます。

子どもや保護者に対して誠実に接すると同時に、きちんと境界線が引けることと、大変さを分かちあえる同僚がいることが、過酷な状況にであっても疲弊しすぎず長く続けられるポイントかもしれません。

終わりに

児童福祉分野に転職したい方が押さえておくとよい5つのポイントを挙げました。

福祉分野で活躍する周りの心理職の方を見ていると、根気強く、タフで、自然体で子どもや保護者に接することができる方が多い印象です。もちろん大変さもある領域ですが、子どもの安心・安全を守る一翼を担うことができ、ほかの領域にはないやりがいだと思います。

ご参考いただければ幸いです。

 

引用・参考文献
1)厚生労働省.児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律の公布について.https://www.mhlw.go.jp/content/01kaisei_tsuuchi.pdf(2019年12月閲覧)
2)厚生労働省.児童虐待防止対策体制総合強化プラン.https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000469070.pdf(2019年12月閲覧)

 

(文・ライター/公認心理師 川津香湖)


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