第1回 就職の経緯は「紹介」が4割! -アンケートからみる、心理職の就職・転職事情2022-│RESTART! はたらく心理職
臨床心理士・公認心理師
にしむら
はじめに
はじめましての方もお久しぶりの方も、こんにちは。ライター兼臨床心理士・公認心理師にしむらと申します。
2021年は本サイトで「そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?」というタイトルで連載を行いました。アンケート、座談会、感想メールなど、たくさんのご協力とリアクションをいただき、ありがとうございました。
今年は、RESTART(再起動・再出発)をテーマに、心理職のはらたく現状とこれからについて考えていきたいと思います。気軽に読めて、ふむふむと役に立ち、前向きな気持ちになれるような記事を目指しています。どうぞよろしくお願いいたします。
連載1回目は、「心理職の就職・転職に関するアンケート」の結果を紹介し、はたらく心理職の就職・転職事情をみていきます。結果のページのリンクは最後にあります。
2022年 心理職のはたらき方の現状
アンケートへの回答者は69人でした。ご協力いただき、心より感謝を申し上げます。
年齢層は30代、40代の方が中心でした(20代の方はいませんでした)。資格は公認心理師が65人と最も多く、公認心理師に加えて臨床心理士をもついわゆるダブルホルダーが32人、ほかは、医療、福祉、教育の専門資格をお持ちの方がほとんどでした。経験年数では、回答者の多い順で6~10年が14人、16~20年が13人、1年未満が12人と幅広いことがわかりました。上記の傾向を念頭におきながら、以下をお読みいただければと思います。
働き方の現状です。雇用形態は常勤37人でした。ほかは非常勤、嘱託、個人開業、会計年度任用職員などでした。全体の45%の方が非正規で複数の職場をもっており、2か所が14人、3か所が8人、5か所以上が7人でした。勤務先は医療機関(病院・診療所)もしくは医療機関とほかとの兼業が合わせて26人と最も多く、学校・教育関係、福祉、司法と続きました。業務内容で最も多いのは「カウンセリング・心理療法」32人、次に「心理検査・心理アセスメント」14人、「教育・研究」7人という結果でした。これらは、職能団体による調査とほとんど同様の傾向です。
厚生労働省の調査では、労働者に占める非正規雇用の割合は38%とのデータがあります1)。心理職は非正規雇用の割合が全体よりも多く、かつダブルワーク以上の場合も少なくないことが特徴といえます。
転職経験のある方は55人でした。複数の転職を経験している方が大半で、最頻値は3回で13人、転職回数が最も多い方で15回でした。非正規で複数の職場をもつ人が半数近くいたことから、転職が珍しくないこと、つまり雇用の流動性が高いことが心理職の特徴といえます。このことは心理職だけでなく、クライアントや職場にとって有益なのか気になりますが、ひとまず今回は置いておきましょう。
勤務先が同時に5か所以上……ほかの専門職ではなかなかないことではと思います。かくいう筆者もライター業を含めて3つかけもちをしており、他職種の人からは「すごいね!」と感嘆、ときに心配されることがあります。1か所に勤める大変さ、複数の職場で働く大変さ、どちらもおつかれさまです。
心理職の入職経緯ランキング、ベスト5!
「雇用が不安定」といわざるをえない心理職ですが、みなさんはどのように職を得たのでしょうか?【Q.現在の勤務先への入職経緯をお教えください(複数回答可)】への回答数が多かった順から発表していきましょう!
1位 知人を介しての紹介 28票
2位 施設による公募(公務員試験を含む) 14票
3位 ハローワーク 10票
4位 一般の求職情報ウェブサイト 8票
5位 心理職向けの求職情報ウェブサイト 5票
勤務先からの直接紹介 5票
(合計87票)
「知人を介しての紹介」がほかを圧倒しています。「勤務先からの直接紹介」を含めると、「紹介」が全体の約4割を占めました。いわゆる縁故、コネクション、リファラル採用(社員から友人、知人などを紹介してもらう)と呼ばれる採用方法の割合が多いことが分かります。自由記述でも「人脈に限る」「コネがなくて苦労した」との声がありました。求職情報ウェブサイトも一定の雇用につながっているようです。
比較材料として一般の就職をみてみましょう。少し前のデータになりますが、厚生労働省の調査では、入職経緯で最も多いのが「広告」で30%前後、次いで「縁故」で20%強という結果でした2)。
今回は回答者が69人と少なく、データの偏りは否定しきれませんが、心理職では一般の就職よりも紹介での入職の割合が高い、といえるのではないでしょうか。
また、転職エージェントを介した入職を経験した人は、今回の調査では0人でした。自由記述では「大手の転職サイトのエージェントから心理士の求人はないため断られた。メディカルスタッフ向けの転職サイトの選択肢に心理職がなかった(要約)」という声もありました。一般企業やほかのメディカルスタッフにおける「就活」とは別ものと考えたほうがよさそうです。まだまだ心理職はマイナーであり、ほかの職種よりも求人市場が開かれているとはいいがたい現状だと思われます。
ではなぜ知り合いなどからの「紹介」が多いのか。考えていきましょう。
心理職の採用に「紹介」が多い理由
紹介には間に入る人が必要です。今回は調べていませんが、指導教官、大学OB・OG、親族、前職のつながりなどが考えられます。ある程度のバックグラウンドを含めて、“顔の見える関係” が採用前からあることが想定されます。心理職は、仕事の特性上、クライアントと1対1で関わることが多く、個人の力量によることが多い職業といえます。そのため、クライアントやほかの同僚に与える影響を考えると、初対面の人の採用に慎重になるのかもしれません。一人職場や少人数の職場が多く、とくに非正規雇用では職場内での教育に時間を割くことが難しく、即戦力を求めがちな点もあるでしょう。これは経験者が有利という、専門職では避け難い理由であり、筆者も新卒のころに壁を感じたところです。
ほかの要因では、求人にかかるコストが挙げられます。2018年に国家資格ができ、公認心理師をもつ人は急増していますから、オープンな求職サイトに良い条件の求人が掲載されれば、かなりの応募者が集まることが考えられます。採用側は、紹介手数料の支払いのみならず、サイトへの掲載、問い合わせ対応、書類選考、面接選考などのプロセスにも少なくない負担が生じます。紹介はこれらのコスト削減の意味もありそうです。
ただ、紹介のみを重ねると同じ大学出身者や似た考え方の人などに偏ることもあります。すると、職場の多様性は乏しくなり、提供できる心理的支援の幅が狭くなることがありえます。また、紹介者の手前、職場内で遠慮が生じることや、職場が合わない場合であっても退職しにくいなど、デメリットもあるでしょう。
求職者の立場からすると、エントリーへの門戸が一部で開かれていないことは、残念でやりきれない思いをもつのは当然です。紹介ルートをもたないときはどうしたらよいか。仕事を得るための道を切り開いた経験者の声が届いているので紹介します。
行動力がカギ!就活ストーリー
【Q.求職活動時の印象的なエピソードがあればぜひお聞かせください】には、たくさんの興味深い内容が集まりました。まず、以下の3人の回答を紹介します。
「学会の懇親会で、自分が仕事を探していることを知った見知らぬ先生から誘ってもらい、転職に至った」「年齢的に無理かもと思って採用試験を受けたが、考えるより実行したら合格した」「コネもなく職能団体でアピールしても手応えがないなか、近場の病院に片っ端からメールを送って採用された」(すべて要旨抜粋)です。たくましい!! 拍手です。筆者が読み取った共通するポイントは、一歩前に出る行動力です。
紹介以外の6割の求人方法で採用されるには、自分をいかにアピールするかがカギではないでしょうか。得意な領域、前職での経験、研究実績、専門資格、これらがどのように活かせるかなどを、分かりやすく伝えられるとよさそうです。
一方、同じ質問には「採用面接でマタハラを受けた」「子育てで退職後に再就職を希望した際にはなかなか書類審査が通らない」との回答も寄せられました。昨年の連載でふれたとおり、子育て世代の心理職の雇用をめぐる現状は専門家に「取り残された」とまで言われています。また、「提示されていた情報が、入職時に違った」との回答もありました。なんとも切ない現実です。社会保険労務士の方に、マタハラへの対応法と雇用契約時の注意事項をうかがった過去の記事がありますので、ご参照いただけますと幸いです。
残念ながら、ほかの業界と同様に心理職の職場の一部にはブラックな労働環境があるのかもしれません。気を付けたいものです。これらは、求職者がエントリーする職場を見極めること、心理職らしく表現すると、フィールドのアセスメントスキルが求められるといえます。直感はもちろんのこと、違和感があったらさりげなく尋ねる、口コミ情報を収集する、労働法など制度を知った上で交渉をするなど、日々のスキルの活かしどころではないかと思います。
求めるものは、夢?やりがい?それとも待遇?
資格取得を、RESTARTのきっかけにしたいと思っている方は少なくないと思います。その先には、ご自身なりの実現したいことがあるはずです。
【Q.今の職場で実現されたいことを教えてください】への自由記述式の回答では、スキル向上、クライアントへの貢献、研究、教育、ワークライフバランス重視など、実に多様で、それぞれの個性と価値観が表れていました。
【Q.就職・転職のときに大切にしたいと思っていることを教えてください】への選択式の回答では、専門性の発揮を重視するもの(例:今以上に、心理職としての知識や技術を活かせる)と、労働条件を重視するもの(例:収入/待遇・福利厚生が今より良い)とが数の上で拮抗していました。回答がどちらか一方に偏らないことも、2022年の心理職のはたらき方を映し出しているように思います。これらの優先度は、その人の志向性、キャリアの時期、ライフステージなどによって変化していくのでしょう。
それぞれの、RESTART
RESTARTのタイミングは人それぞれ、一度ではなく何度も訪れるのだと思います。なかなか厳しい面もある心理職の転職・就職事情ですが、やはり早道はないようです。運に左右されるところも多いところもあります。
地道に心理職としての実力をつけること、紹介につながる人脈をつくっていくこと、そして軽いフットワークが、よきタイミングでの就職・転職を引き寄せると思います。常勤で1か所の職場にいる人も、心境や考え方、立場の変化など、RESTARTの転機は訪れているのではないでしょうか。今回は就職・転職という面から書いてきましたが、回答者には開業されている方も複数おられ、今後の連載で深掘りしたいと思っています。
あなたのRESTARTは、いつ、どんな形でしょうか。少し先かもしれませんし、すでに始まっているかもしれません。大変さも伴うと思いますが、その先には、明るい未来が待っていますように!
次回は、公認心理師資格を取得してキャリアのRESTARTをされた方への取材を予定しています。どうぞお楽しみに!
記事への感想、ご意見、取り上げてもらいたいテーマなど、ぜひ下記よりご連絡ください。お待ちしています。
★アンケートの結果はこちら。ぜひご参照ください。
【参考文献】
1)厚生労働省.令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-.https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-03-18.html(2022年6月4日閲覧)
2)厚生労働省.入職者の入職経路に関する分析.労働市場分析レポート第41号.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000066757.pdf(2022年6月4日閲覧)
あわせて読みたい
・第1回 心理職の働き方のリアル|そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?