第3回 心理職の産休・育休について考えよう~育休後コンサルタント®山口理栄先生へインタビュー(前編)~|そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?

臨床心理士・公認心理師
にしむら よしこ


「(産休・育休にまつわる環境が)心理職はあまりにひどい……」

本連載で実施した、心理職の産休・育休に関するアンケートへの山口理栄先生(育休後コンサルタント®)のコメントです。

今回は、産休・育休にまつわるモヤモヤの解決法を探ります。アンケートへの意見のみならず、具体的な情報や専門職としてのあり方、社会の中で生き抜く姿勢まで話が及んだ白熱のインタビュー内容を前編・後編に分けてお届けします。

前編は心理職の産休・育休の現状分析と解決法、後編は心理職が生きるためのヒントです。お読みいただければ、モヤモヤに一条の光が差すはずです。

 

■インタビュー後編はこちら

「本人の問題でなく、雇用が安定していないことが非常に問題」

―― アンケートを読んだ感想、気づかれた点を教えてください。
山口 本人ではなく、雇用が安定していないことが非常に問題だと感じました。これは社会的な問題だと思います。保育士と同様、雇用が安定せず待遇が悪い。重要な職業なのに軽視されている。すべては雇用の不安定さからきています。

 

―― 個人や職種特有の事情よりも社会的な立場によるものが大きい。
山口 重要な職業という点では学校の先生にも似たところがありますが、たとえば自治体の教職員だと、仕事そのものはハードでも、育休制度ができる前から産休補助要員が配置されていたなど、もっと恵まれています。心理職はどちらかというと、大学教員と似ているのかもしれません。大学教員の多くはパーマネント(常勤)ではありません。研究と出産が重なると次のキャリアが描きづらいなど、安定していないことがベースにあります。

 

―― 大学教員は、心理職の中では恵まれた立場に思えるが、決して安定していない。
山口 とくに若くて、研究職としてキャリアが浅くパーマネントな職が得られていない方がそうです。

 

―― まさに産休・育休の世代ですね。
山口 はい。育休・産休制度のない世代の大学教員はさらに厳しかった。「どうしたらよいのか」と質問されることがありますが、組織へ研修を行う以前の問題のため、私が解決できる範囲を超えています。正直、今回も同じことを感じました。もちろんこの状況でも、打開していく余地はあって、個人でできることもあります。ですが、企業で働いている人に比べると圧倒的につらそうだなとアンケートを見ていて思いました。

 

―― 「圧倒的」と言われることに驚きました。
山口 企業に勤める人は、産休・育休を当たり前に取ることができます。取れるのだろうかと不安をもっている人はいません。中小企業でも、取れるはずだと思っている。それは、「多くの企業の人が取っているから取れるはず」という考えが浸透しているからです。ですが、このアンケートに答えている方々は、下手すると調べてすらいない。周りが取っていないから取れないと思っているのではないでしょうか。出産手当金は健康保険から振り込まれるといった知識がない方もいるのではと思うほど、周囲の事例に恵まれていないことがわかります。

 

―― 情報を得る機会がない、働きかける前に諦めているというのが先ほど言われた「余地」でしょうか。
山口 労働者として、「いくらなんでもおかしいだろう」という基本的な意識・知識があるべきですね。このままだと、仕事に対するプライドや、自信がないのではと誤解されてしまうくらいです。もちろんそうではないことは承知しています。ただ、やっぱりもうちょっと交渉してほしい。

 

―― 耳が痛いお話ですが、労働者としての意識をもつべきというのは、鋭いご指摘だと思います。この連載を通して、もっと意識をもってほしい。私自身も知識が足りなくて不利益を被ったことがありました。一方、職種に特別な意識や満足感があることも諦めにつながっているのではないかと個人的には思っています。諦めや知識の足りなさに、先生の研修が1つのきっかけになると思うのですが。
山口 私よりも、基本的な知識は社会保険労務士が適任です。つながりはありますか? 職場で丸め込まれてしまうのではなく、本当は交渉できる。社会保険労務士を味方につけると強いと思います。

 

―― 一部の職能団体では社会保険労務士に相談する機会はありますが、実際の利用状況は分かりません。
山口 社会保険労務士のように、労働者に寄り添える人がいないと、この状況を変えていくことは難しいでしょう。労働者側も、職場と闘わなきゃいけない。そして、そのときには同じ職種の人が束になる必要があります。そうすると、みんなで集まって互いの経験を共有することができます。

アンケートを見ていると、産休・育休を取得できた方もいる。そういった人にまずは話を聞く。気になる部分は質問すればいいし、法律的に問題があるなら労働基準監督署に行くとか裁判を起こすなどの事例をつくっていかないと、現状は変わらないと思います。ほかの職種からみても、心理職の状況はかなり深刻です。ちょうど私がこの仕事を始めて11年目となりますが、ようやく企業では産休・育休取得が当たり前になってきました。現状に心理職は取り残されたように思います。

心理職には非常勤が多いとのことですが、1年契約だと、今の制度では取得が難しかったと思います。2020年から、主に男性の育休取得促進を目指して議論が進んできています。そのなかで男女分け隔てなく、働いて1年未満の非正規雇用の人も育休を取れる可能性が出てきています(厚生労働省 職業安定分科会雇用保険部会〈第 145 回〉[男性の育児休業取得促進策等について(案)]より)。

労働相談、仲間同士の情報共有、制度を知って身を守ろう

―― アンケートでほかに印象的なところはありましたか?
山口 アンケートの自由記述を見ていて、「制度を知っていればこの人は救われたかもしれない」というのがありました。上長が変わったことで就業規則の取り扱いが変わったというケースです。ただこれは、あってはいけないことです。就業規則は人に依存しません。あとは、「休めても補償が全くなかった」は、制度を知らなかったからでしょう。やはり、心理職の皆さんは、事例をつくって、自分たちで自分たちを守らないといけないと思います。職場内でも職種を横断してでも、「私はこう話し合ってうまくいきました」などを共有することで、「じゃあ私もしてみようか」と、広がっていくかもしれません。

「ここの職場は良かった」という評価を共有し、その職場に人が集まっていく。人気のある職場に人が集まり、人気のない職場には人が来なくなるのは市場原理としては適切です。働きやすい企業に人は集まります。職場での立場が弱く、パワハラもあったりすると、交渉するのは怖いかもしれませんが、仲間同士で支え合うことで一つ一つ可能になることもあります。

とにかく情報共有です。病院や皆さんの雇用先の事業所でも、自治体のワークライフバランス賞を獲っているところを目指すとか。最初の給料は良いかもしれないけど、他社のほうが将来性があるよと教えてもらうとか。ブラック企業じゃなくホワイト企業の探し方を共有するとか。大学を卒業した人に情報を提供していく仕組みをつくるとか。

 

―― 就職する前に自分が守られて働けるか、産休・育休が取れるかなど、しっかり確認したうえで入職することも大切ですね。
山口 アンケートの中には両立できている人もいるので、そういう方から話を聞いてみてください。学生なら、卒業前や求職中に、たくさんの先輩方の話を聞く。そうすると、こういう基準で仕事を探せばいいんだなあとわかります。たとえば病院であれば院内保育所がある所などですね。

 

―― おかしいことがまかり通ってしまうことがある。そこでいかに交渉するかがカギになるということですね。
山口 もしかすると勤務先の人も知らないかもしれませんね。働き続ける人が少ないと、人事側にも情報が蓄積されていないことがあります。育児休業中でも月80時間までは働ける(厚生労働省「育児休業中の労働について」より)。そういう制度を使えば、育休中に心理療法のみ実施していた方もいたように、復帰する前から業務ができると思うんですよね。そういう情報が共有されておらず、働く側も雇用する側も知らない。

 

―― 互いに知らないのは、働きかける余地のあるところですね。自分の経験を振り返ってもできることがあると思いました。

 

モヤモヤ解決のヒント
①「?」と思ったら、社会保険労務士や労働局、ハローワークに相談しよう
②心理職同士で体験を話し合い、情報共有しよう

 

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山口理栄先生略歴
1984年4月 総合電機メーカー入社。ソフトウェア開発部署にてソフトウェアの設計、開発、製品企画などに従事。2度育休を取り、部長職まで務める。2006年から2年間、社内の女性活躍推進プロジェクトのリーダーに就任。
2010年6月 育休後コンサルタント®として独立。企業や官公庁・自治体を対象として育児中の社員・職員向け研修、およびそういった部下を持つ管理職向け研修を提供。法人向け研修は年間約200回実施している。
個人向けには2011年から育休後カフェ®、育休後面会相談などのサービスを提供している。
育休後カフェは全都道府県実施まであと18府県。
2021年より株式会社山口企画会社代表取締役。

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本連載は、皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考えております。ぜひ、ご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを教えてください。

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