第1回 心理職の働き方のリアル|そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?

臨床心理士・公認心理師
にしむら よしこ

はじめに

色にたとえるなら、灰色のグラデーション。うっすら赤くにじみ、深い青にも見える。霧のように、煙のように、蛇のとぐろのように、心の中にわだかまっているもの。筆者の「モヤモヤ」はこのようなイメージです。あなたはどうでしょう。

「心理職なら人の心が分かるんでしょ?」と耳にすることがありますが、そんなはずはありません。心理学の知識のおかげで解像度は少し高いかもしれませんが、人の心は読めません。そして心理職だって「モヤモヤ」します。あえて口に出すことは少ないですが。

この連載は、普段は黒子である心理職の「モヤモヤ」がテーマです。なかでも “ 働く” ことに焦点を当て、資格、待遇、産休・育休、転職、キャリア形成……などを取り上げていきます。

昨夏、「心理職で食べれるか」というイベントを開催しました(レポート記事はこちら)。多くの心理職が「モヤモヤ」を抱えながら働いており、背景には職種特有の事情、構造的な課題が潜んでいるということが分かりました。

「モヤモヤ」を共有し話し合うことは、奥にある怒りと悲しみを癒やします。データと事例を重ねて検証することは、具体的な解決につながると考えます。現役心理職、志望者、関係者などの方々に、ちょっと役立つ記事になれば幸いです。

第1回は、「心理職の働き方のリアル」に迫ります!

2021年、資格の現在地

数年前までは、多施設から「心理職」が集まると、資格が異なっていたり、無資格者がいたりすることがありました。専門機関で心理の仕事に関わりながら、資格はバラバラ……モヤっとしますね。

「心理職」「カウンセラー」と名乗ることは誰でもできます。2019年に誕生した日本初の国家資格「公認心理師」(「心理師」含む)は名称独占であり、取得者以外が名乗ることはできません。

2020年12月に行われた第3回公認心理師試験の結果、新たに7,282名が合格し、延べ合格者数は43,720人と、公認心理師が臨床心理士を数の上で上回りました。「心理職」といえば「公認心理師」が主流になりそうです。

国家試験の合格者内訳をみてみると、単位の読み替えでの方が年々減っています。第1回試験では、臨床心理士など心理系大学出身者の合格者が多かったのが、第2回以降、看護師、社会福祉士、教員など他の専門資格者が増えてきたからでしょう。

今、まさに心理職の過渡期にあると思います。公認心理師がデフォルトになっていくと、基礎資格は何か、プラスとなる心理系の認定資格(領域別、専門技法別など)が問われる時代がくることも考えられます。

国家資格化が、これまでの「モヤモヤ」を解消するのか、はたまた新たな「モヤモヤ」を生むのか。動向が気になります。

常勤?非常勤?働き方について

心理職の働き方は多様で多彩です。言い換えると、不安定でもあります

非常勤が多いのは大きな特徴です。医療機関を対象とした全国調査では、公認心理師の雇用形態は約40%が非常勤で、勤務日数は2日未満が最も多いことが明らかになりました。経験年数・業務内容・地域との関係は明らかではありませんが、非常勤では時給1,000円未満から3,000円程度などと差が大きく、5割以上が1,600円以下でした。資格取得にかかる年数を考えると寂しい結果です。都市部のスクールカウンセラー、産業関係では時給が高いことも、「モヤモヤ」を促進します。「え!? 私の年収低すぎ」と落ち込むことは、珍しいことではないでしょう。

常勤、非常勤には、メリット・デメリットがあります。表にまとめてみました。個人的な意見を含みますが、ご参考になればと思います。

  給 与 社会保障 対人関係 業務の幅 研修費
常 勤 安定 あり 広い 補助ありが多い
非常勤 不安定 なしが多い 部分的 狭い 自己負担が多い

 

常勤では、施設内で幅広く活動することで(例:院内カウンセリング・病棟コンサルテーション・家族会の運営など)、組織との関わりや影響力、人間関係も濃くなります。非常勤のかけもちでは、複数の立場で異なる対象にピンポイントで関わるので(例:スクールカウンセラーと電話相談を兼務)、別の視点をもつことができます。

心理職は、研修、書籍、スーパービジョンなど何かと物入りです。非常勤では研修費の補助はあまり期待できませんが、常勤では施設から補助が出ることがあります。

就職時には、社会保障、研修費の取り扱い、産休・育休の有無といった雇用条件を、口約束ではなく書面で確認することが重要です。就職後に再確認することと、非常勤の場合は契約更新時の交渉も必要でしょう。言いにくい内容かもしれませんが、条件面をクリアにすることは、身を守り、「モヤモヤ」予防になります

国家資格化によって「公認心理師」が各領域の人員基準や診療報酬に加わり(厚生労働省:令和2年度診療報酬改定の概要)、待遇改善が期待されます。しかし公認心理師は増え続けますから、好条件の仕事は競争が増し、低条件の仕事を選ばざるを得ない方が出ることも考えられます。

男女比と、働き続けること

心理職の男女比は3:7程度です。精神保健福祉士、社会福祉士も同等のようです。

筆者は30代以降、徐々に女性心理職が現場を去ることを経験しました。一方、各種会議では、男性の割合が圧倒的に多いです。心理職の職能団体の役員における女性の割合は半数以下であることも、これを裏付けています。

理由として、女性の就業者のM字カーブ(日本女性の就業者は結婚・出産期にいったん低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する)が関係していると思います。

近年、一般企業では産休・育休が当然となり、M字の角度が緩くなってきました。しかし、常勤が少ない心理職では、復職や再就職がより困難なのかもしれません。この話題は、第2・3回で詳しく取り上げます。

育児は性別に関わりませんし、自身の病気や家族の介護などで一時的に仕事を離れることは、すべての人にありえます。訓練と研さんを積んだ心理職が働き続けることが難しい現状は、個人的にも社会的にも大きな損失だと思います。ほかの業種に比べてこの傾向が目立つならば、それは構造的な課題もあるのではないでしょうか。職場や業界全体で取り組まれることを期待します。

もし、心理職ならではの特性が要因であるならば、それを見直し、反対に生かすことができればと思います。本連載を通して、解決のヒントを見つけていきたいです。

おわりに

いっぱい勉強した、資格を取った、手に職をつけたら働き続けられるはずが、働く受け皿は不安定……。「モヤモヤ」どころか憤りさえ覚えますが、どんなことができるでしょう。

個人でできることは、「モヤモヤ」に巻き込まれてあきらめるのではなく、そっと声に出していくことでないでしょうか。悔しさ、恥ずかしさ、悲しみ、怒りなど、本音だからこそ身近な方には言いにくいかもしれません。本連載が「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと思います。

連載終了時に「モヤモヤ」がどんな色と形に見えているか、今から楽しみです。

 

今回のモヤモヤ・ポイント
①「公認心理師」への移行の過渡期である
②一部の雇用は不安定で、収入に個人差が大きい
③職種全体では非常勤の女性が多いが、意思決定の場には常勤の男性が多い

 

モヤモヤ解決のヒント
①雇用条件をしっかり確認しよう
②一人でモヤモヤせずに話してみよう

 

参考文献
1)国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター.厚生労働省令和元年度障害者総合福祉推進事業「公認心理師の養成や資質向上に向けた実習に関する調査」.2020.
https://www.ncnp.go.jp/hospital/news/docs/ec328acccf3db1be68e791f3c9d8c562e710d37e.pdf(2021年3月15日閲覧)


本連載第2回・第3回では、「心理職の産休・育休」を取り上げます。アンケートの結果発表と専門家へのインタビュー内容をお届けします。お楽しみに!

 

【本連載へのご意見&ご感想をお待ちしています】
本連載は、皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考えております。ぜひ、ご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを教えてください。

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