後編 心理職の産休・育休についてあらためて考えよう│COME BACK! はたらく心理職

臨床心理士・公認心理師
にしむら

はじめに

後編では2名の女性へのインタビューをご紹介します。心理職の約4割を占める非正規雇用、そのとき妊娠出産を経験したら‥‥‥。まさに「リアル」な声です。

心理職の産休育休は、2021年のアンケート時からどうなったのか? 筆者コメントも合わせてご一読いただけるとうれしいです。

後編お一人目のBさんは、“心理職あるある”複数の職場に勤務されていた方です。


プロフィール
・Bさん
・保有資格 臨床心理士、公認心理師、学校心理士
・勤務年数 通算19年、現職は1年未満
・雇用形態および領域 大学講師・病院職員(ともに非正規)→大学教員(任期付き)

 

Q.産休・育休をどのように取りましたか?

出産前は大学の非常勤講師と病院の非常勤を兼務していました。どちらも産休育休制度はなかったので、いったん退職する形をとりました

どちらも年度で区切りがある職場だったので、産休の期間にかかわらず3月末で退職しました。産前約4カ月です。その後、退職中に大学教員(任期付き・現職とは別)に応募し、産後8カ月で再就職しました。
 

Q.産休・育休を取得して良かったことはありますか?

出産前の勤務形態では保育園に入れないことは確実であり、産後に職場復帰をする目途が立たなかったので、思い切って退職しました。退職後は体調不良で仕事を休む心配や調整などをしなくてよくなったので、気が楽になりました。

産前産後は自分自身も余裕がなかったので、育休(に相当する期間)がなかったら、対応できなかったと思います。また子どもとの時間が増えたのもよかったことですが、せっかくの機会なので、当事者側として子育ての現場に参加する体験をしようと考えて、実際に母親学級に参加したり、地域の子育て支援センターに行ったり、どのように支援が行われているのかをみる経験ができたことがとてもよかったです。

 

Q.産休・育休で大変だったこと、またそれにどう対応しましたか?

産休育休に相当する期間中、再就職のための準備をしたことが大変でした。産後の頭が回らない状況で、いろいろと準備をしたり、就職後の一時保育の手続きをしたりするのがそれまでのようには要領よくできませんでした。また産休育休中も原稿を書いたりする仕事は継続していたので、その時間や余裕を確保するのが大変でした。まとまった時間が取れないので、細切れ時間でできることをしたりしましたが、良くも悪くも子育ての大変さでそれ以外のことに鈍感になったので、何とかなったような気もします。
 

心理職(読者)へのメッセージ

兼務だと、産休育休にあたりそれぞれの仕事を調整したり引継ぎをしたり、復帰(もしくは退職)の手続きをしたり、やることが職場ごとにあってとても大変だと思いました。そして産休育休のことを考えると、キャリア継続のためには出産前に産休育休が整っている職場に就職することも大事だと感じました。

また任期付きの教員や研究職の場合は、産休育休がとれるかどうかは雇用契約によると思うので、そのあたりも難しいなと思います。ただ自分の場合はいろいろな職場を経験したことがその後の再就職にもつながっているので、理想通りにはいかなくても、今後どうするかを常に考えていくことが大切なのかなと自分に言い聞かせているところです。


厳しい状況でも前向な姿勢を持ち続けるBさんに心より敬意を表します。

ただでさえ不安な妊娠中に退職が決まり、産後数カ月で転職活動をすることは、どれほど大変なことでしょうか。これを「母は強し」と称して収め、社会構造がもたらす困難から目を背けてはいけないとも思います。

お二人目はCさん、正職員のときに第一子を、転職して非正規雇用のときに第二子を持たれた経験を記していただきました。さっそくご紹介します。


プロフィール
・Cさん
・保有資格 公認心理師、臨床心理士
・勤務年数 通算12年目
・雇用形態および領域 病院正職員→大学助手(任期付きの常勤)

 

Q.産休・育休をどのように取りましたか?

産休を産前6週間、産後8週間取得しました。育休を子が1歳になるまでと、年度途中で保育園に入れなかったため、保育園入園が決まる1歳4カ月まで取得しました。

 

Q.産休・育休を取得して良かったことはありますか?

初めての出産、母親1年目で何もかもわからないまま産休育休に突入し、授乳、沐浴、おむつ、離乳食と無我夢中で育児に奮闘していました。自分はというと毎日ほぼ同じ服で髪をとかすこともなく、己のケアそっちのけでわが子のことをみていました。

ただ苦と感じることはみじんもなく、これほどまでに自分の子が可愛いものであるということに感動を覚えた記憶があります。自分を求めてくれ、刻々と成長する姿を一番そばでみられたことは本当に産休育休を取得して良かったなと感じています。

また、これまで仕事から離れるということが(考えることすら)なかったので、仕事をしていない自分(ある意味育児は仕事以上の部分もありますが)という想像さえできなかった新しい自分に出会えたことも、産休育休を取得して得られた大きなことの1つでした。
 

Q.産休・育休で大変だったこと、またそれにどう対応しましたか?

愛しいわが子と生活する時間が長くなるにつれて、復職に対するモチベーションが底辺まで下がったことです。元の職場に戻りたくない、いっそ心理職を辞めて近所のケーキ屋さんでパートをしようか、そもそも働くということ自体辞めようか。これまで仕事しかしてこなかった自分がこんな思いを抱くなんてと驚きながら、今の生活を手放すことへの拒否感だけが日増しに強くなっていきました。

そんなとき、たまたま知り合いの心理職の方が企画した学会のシンポジウムの情報が入り、ちょっとした興味本位で参加しました。そこで「育児の経験は必ず心理臨床場面で活きてくる」という言葉を耳にして、はっとしました。クライエントに対して母になった自分という、これまでとは違う心理職としての見方や聴き方ができるのではないか、これまでとは異なる心理的支援が何かできるのではないか、そう感じて再び心理職として働こうと決意しました。
 

心理職(読者)へのメッセージ

私自身この連載のいちファンであり、にしむら先生の記事やアンケートの回答を拝読しては、私だけじゃない、多くの心理職が悩みを抱えながら日々奮闘しているんだなと勇気づけられています。

私はこれから第二子の産休に入ろうというところなのですが、今回はさまざまな理由から育休取得が難しい状況にあります。妊娠出産、産休育休、復職は1度経験したから次からは何の問題もなく大丈夫というものではないということを、身をもって感じています。

この記事を読んでおられる皆さまもさまざまなお立場、状況にあり、抱えるモヤモヤは十人十色だと思います。現実問題として、簡単に解決しない、答えが出ないことも多々あります。ただ、情報や思いを共有することはそれだけでも心持ちが全然違う、それは心理職である私たちが一番よくわかっていることではないでしょうか。私が発信した内容もどなたかの私だけじゃないという気持ちに少しでもお力添えできたならば、私もまた頑張れます。


筆者もとても勇気づけられました。ありがとうございます。十人十色であるとしても、「私だけじゃない」という感覚が支えになるのだと思います。

正職員で産休育休をされた第一子のときと非正規教員の第二子のとき、前者では瑞々しい体験談が胸をうち、後者ではBさんと同様の切迫感を覚えます。

最近の一般的な会社員では当然の権利であり前編のAさんのような男性育休も珍しくなくなった現在も、Bさん、Cさんのように取得ができないことは続いていることがわかります。

2021年のアンケート調査(心理職の産休・育休について考えよう~アンケート結果公開~)では「取得できる産休・育休制度がある」と回答したのは67%。つまり、約3人に1人はBさんと同様に退職を選択せざるを得ないと思われます。これは非正規雇用であることが要因として大きいでしょう。任期付きの教員の問題は育休後コンサルタント®山口理栄先生のインタビューでも指摘されていました。

今回の3名のインタビューから筆者なりの結論は、心理職の産休育休は、男性育休など制度改正の恩恵を受けることができる方が増えたが、今もって取り残されている方が少なくないと言わざるを得ません

明るい兆しとして、学術集会で保育利用が増えていることや、人文科学系研究者における男女共同参画を推進する動きもあります。

就職・転職シーズンに向けて

Bさん、Cさんは妊娠出産後に転職を経験されました。

年度末は就職・転職のシーズンでもあります。読者の方々の中には、就職活動中の方もおられると思います。心理職の就職の経緯は紹介が4割というアンケート結果もあり、伝手をもたない人が不利になるところは否定しがたいです。

東京都ではスクールカウンセラーの大量雇止めがニュースになりました。スクールカウンセラーに限らず、公的機関の相談職は会計年度任用職員が多くを占めています。

前編でもふれた2022年度の制度改正により非正規雇用の人にも産休育休の機会が拡大しました。詳しくみていくと「育児休業をすることができる有期雇用労働者の範囲」として挙げられるのは「子が1歳6か月に達するまでに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと」と書かれています。勤務日数や契約内容によって異なる場合があり、勤務規定等を確認する必要があります。

おわりに:これからの心理職の産休育休は?

心理職の産休育休、ひいては心理職の雇用の現状は簡単には変わらないかもしれません。しかし、AさんCさんが子育てで新しい自分を見出して復帰されたように、Bさんが過去の経験を活かして再就職をされたように、視野を広げたことや苦労も含めて、それぞれの現場で子育て経験を活かしていくことは意義深く、多くの人に還元されると筆者は考えます。本記事ではふれていませんが、産休育休で一時的に抜けることは、ほかの同僚に少なからず影響を及ぼしますが、転じて彼らの成長の機会になることもあるでしょう。

読者の方々は、3名の方の声をどのように受けとめたでしょうか。さまざまな思いや見解をお持ちの方がいることと思います。感想・ご意見等は以下のフォームから受け付けています。

もし3年後に心理職の産休育休に関するアンケートとインタビューをしたらどのような結果になるでしょうか。それがポジティブなものになるには、どうすればよいでしょうか。本記事が考えていただくきっかけになれば幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

■参考文献
1)武信三恵子、戒能民江、瀬山紀子編『官製ワーキングプアの女性たち』岩波ブックレット、2020年
2)人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会ホームページ
https://geahssoffice.wixsite.com/geahss(2024年3月7日閲覧)
3)厚生労働省.有期雇用労働者の育児休業や介護休業について.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r01_12_27.pdf(2024年3月7日閲覧)

 

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