わたしのヒストリー|こころを守り育む仕事
大阪府済生会 吹田病院
小児科 臨床心理士
脇田 菜摘
いまの働きかた
総合病院の地域周産期母子医療センターと小児科、つまり、おなかの中にいる小さな赤ちゃんから15歳までの子どもがいるところで働いています。
地域周産期母子医療センターの産科では、赤ちゃんがお母さんからお腹のなかにいるときからご家族と関わっていきます。赤ちゃんの誕生後は、NICU(新生児集中治療室)やGCU(回復室)で、ご両親と一緒に赤ちゃんの様子を共有したり、親子の出会いをそっと見守っています。入院している赤ちゃんは、早産や先天性の病気により医療のサポートが必要なため、お母さんやお父さんと離れて暮らさなければなりません。処置や医学的管理が優先されるため、赤ちゃんは、自分の欲求や甘えを親との間で満たしてもらうことが難しくなりますし、ご両親は、早産になった罪悪感や病気の予後、将来の成長発達への心配から赤ちゃんとの自然な関係を築くことが難しくなります。そのような状況で、心理士は、「いま、この赤ちゃんは、何を伝えようとしてくれているのだろうか?」「お母さんは赤ちゃんとの間でどのような思いでいるのだろうか?」と親子のこころに寄り添い、親子の自然な交流が始まるのを見守り、支えていきます。
小児科では、NICUを退院した子どもたちの発達相談や発達検査、知能検査を行います。また、家庭内の葛藤や友人関係の不安が身体の症状につながっていると考えられる子どもに対して、遊びの要素を取り入れた面接を行うこともあります。医師や看護師から子どもの発達や虐待対応に関する勉強会の開催を頼まれることもあります。当院では、虐待を受けた子どもと出会うことも多く、被害を告白してくれた子どものこころを守りつつ、児童相談所など他機関につなぐことも重要な役割です。
いずれの領域においても、病気や障害、こころに傷が残るような体験をした子どものこころを守り、育むことが心理職には求められます。院内の医師や看護師、保育士、ソーシャルワーカー、院外の保健師や担任の先生など多職種に向け、子どもが抱えている心理的課題だけでなく子どもの強みもわかりやすく伝えることで、皆で子どものこころの成長を支えています。
心理職をめざした理由
乳幼児期の子どもの発達に興味があり、名古屋大学の教育発達科学研究科へ入学しました。そこでは、子どもの発達を多角的に学ぶことができ、大学院では豊富な実習を通してたくさんの親子に出会いました。そのなかでも、乳幼児期の子どもは、心理士からのかかわりに対して反応が早いことや、親と子が互いに響き合いながら関係性を築いていくところにとくに興味を持ちました。
日本学術振興会の研究員に採用され、生後間もない乳児と母親の相互作用について観察法や面接法を用いた調査を行ったり、附属病院のNICUで医療的ケアが必要なたくさんの親子と出会ったり、小児科開業医のもとで子育て中のお母さんの相談をたくさん聴かせてもらう経験を通じて、子どものこころを守り・育むことを専門にしていくようになりました。短期間ですが海外の心理臨床に触れる機会にも恵まれ、今は縁あって当院の周産期・小児科担当として勤めています。
実際になってみて
時間が足りない! 一人の赤ちゃん(子ども)とそのご家族と出会うと、赤ちゃんの様子やご家族の心理的状況について私なりに一生懸命考えたり、医師や看護師と共有するために、時間と心理士自身のこころのエネルギーを多く使います。また、独りよがりの臨床にならないように、勉強会や研修会への参加も欠かせません。
医療の現場では、まだまだ心理職の専門性や役割が認知されていないことを痛感しています。待遇の面でも海外に比べて心理職の位置づけが低いように感じています。
これから
同じ患者さんを担当する小児科医・産婦人科医・助産師・看護師など多職種の皆さんに、心理士の専門性と役割をもっと知ってもらいたいと思っています。一つひとつの事例を大切に共有しながら、心理士がそれぞれの子どもとの間で大切にしていることを医療者にわかる言葉で伝えることで、心理士の視点や専門性を感じてもらえるといいなと思います。「身体の主治医」と「こころの心理士」という分業ではなく、互いに重なり合って親と子のこころを心身両面からサポートする風土が定着するにはまだまだ時間がかかりそうです。
また、乳幼児期の親子関係への介入法や新生児の行動評価に関する資格を取得しているため、当院で出会う親子と向き合うなかでもっと生かしていけるように準備を進めています。
心理職に就きたいと思っている学生へ
人のこころについて、臨床経験だけでなく研究の方面からも知見を深めてみてください。「これが私の専門だ」と自信を持って言えるものがあると強みになります。
まだ心理職が多く勤める職場は少ないですが、趣味があると気の合う仲間と出会いやすく、生活も潤いますよ。私は、仕事で疲れたときこそランニングやピアノを弾いてリフレッシュしています。
1週間のスケジュール
月曜日から金曜日まで勤務し、また当院は土曜日も診療を行っているので土曜日にも出勤しています。