違う視点をもちながら互いに協働していきたい

三重県立こころの医療センター
診療技術部 薬剤室 室長
中村友喜

はじめに

精神科医療の構成を考える上で重要なモデルに、ジョージ・エンゲルが提唱した『生物心理社会モデル(bio-psycho-social model)』があります。このモデルでは、精神疾患の要素は生物学的・心理学的・社会学的要素から成り立っており、それぞれの要素に対する治療、すなわち、生物学的アプローチ(薬物療法や電気痙攣療法・生活習慣の改善など)、心理学的アプローチ(カウンセリング・認知行動療法・心理教育・ストレスコーピングなど)、社会学的アプローチ(家族支援・地域社会のサポート・社会保障・就学就労支援など)の3つの要素がうまく組み合わさることが精神科医療には重要であるとされています。

そのような中で、薬剤師は生物学的アプローチを、公認心理師は心理学的アプローチを得意とする職種であるということができます。

薬剤師ってどんな人たち?

病院の中にある薬局や地域の調剤薬局・ドラッグストアなどを中心に、さまざまなところで薬剤師は働いています。その薬剤師の専門性の基盤には『医療薬学』というものがあります。医療薬学は、「薬を創る薬学(基礎薬学)」と「薬を使う薬学(臨床薬学)」から成り立っています。特に薬を使う薬学である臨床薬学では、自然科学に加えて、患者さんや臨床スタッフとのコミュニケーション・医療倫理など、薬を正しく使うための人間科学も深く関係しています。

また、薬剤師の行動哲学としては、『行動の中心には患者の利益をおく』という『ファーマシューティカル・ケア(pharmaceutical care)』という考えがあります。ファーマシューティカル・ケアについて、WHOは『患者の保健およびQOLの向上のため、明確な治療効果を達成するとの目標をもって、薬物療法を実施する際の、薬剤師の姿勢・行動、関与、関心、倫理、機能、知識・責務ならびに技能に焦点を当てるものである』と定義しています。

このように薬剤師は薬の分子が神経細胞に与える影響などのミクロな視点から、服薬が疾患の再発・再燃に与える影響や患者さんやご家族の生活に与える影響などのマクロな視点までを薬剤を通して考える職種であり、薬剤の領域を中心に話ができる専門性をもった唯一の職種であるといえます。

日常臨床で心理職の必要性を感じるシーン

薬剤師と公認心理師は全く違う視点で患者さんやご家族と関わっています。このことは互いの職種にとって非常に重要なことです。筆者自身も公認心理師の方と話をすると、患者さんの行動や言葉の裏側にある心理状態や思いの深さを知ることができ、服薬指導の参考にさせていただくことがよくあります。

特に薬物療法の効果が予想していたものと違った場合や患者さんが服薬に拒否的な場合などには、公認心理師の視点が重要になります。多職種によるケースカンファレンスの場では、公認心理師によるアセスメントをもとに選択する薬剤が変更されることや、治療の重点をストレスコーピングや認知行動療法などの心理学的なアプローチにシフトして、薬物療法はそれらをサポートするように変更されることもあります。

例えば、睡眠薬などの薬剤が多剤併用になっている患者さんでは、減薬に拒否的になりがちです。過去に薬剤による離脱症状の経験がある場合などでは、一般的に減薬はさらに困難をきたします。このようなときには、薬剤師は薬物有害事象が発現しにくい減薬プロトコールの管理を、公認心理師は睡眠や不安に対する認知行動療法を、看護師は睡眠衛生の管理を、作業療法士は日中のQOLの改善を行い、互いが協働して治療にあたります。

患者さんにより良い精神科医療を提供するためには、患者さん自身も含め医療スタッフが同じ方向を向くことが重要です。各職種が自分の領域だけを守ることばかり考えていては患者さんだけでなく自分たちのためにもなりません。それぞれの専門性も大切ですが、チーム医療の前提条件としては、各職種が互いの業務や考え方・価値観を共有し、共に尊重しながら意見に耳を傾ける姿勢をもつことが大事です。

これから公認心理師をめざす方へ

精神科医療において、公認心理師はなくてはならない重要な職種の一つです。その高い専門性は患者さんやご家族だけでなく、一緒に働く私たちにおいてもかけがえのないものです。近い将来、公認心理師となって私たちと一緒に互いに尊重しながら、より良いチーム医療ができる日が訪れることを心待ちにしています。そのときにはぜひ一緒に頑張りましょう。

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