【わたしのヒストリー】“being”の難しさ

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター小児科
臨床心理士
鏑木眞喜子

いまの働きかた

国立国際医療研究センターという総合病院の小児科で、生まれたての赤ちゃんから中学生までのお子さんとそのご家族を対象として、臨床心理士として働いています。具体的には、小児科病棟の中の新生児集中治療室(NICU)および回復室(GCU)に入院した、早産や先天性疾患などを理由とする医学的な治療が必要な赤ちゃんとご家族の出会いを見守ったり、少しずつ関係性が育まれていくのをそっと支えたりしています。小児科外来では、NICUを退院した赤ちゃんをはじめ、中学生までのお子さんの発達検査やご家族の育児相談を行っています。友達や家族との関係や、自分自身の性格について、何らかのつまづきや違和感を感じているお子さんとの面接も行っています。また、外来でNICUを退院した2,500g未満で生まれた赤ちゃんのお母さんから、「なかなか泣き止まなくて、あやしにくい」や、「授乳のリズムが一定でない」など、育児が大変であるという声をよく耳にしていました。このような経験から、小さく生まれた赤ちゃんの気難しさ(気質的な難しさ)に着目して、赤ちゃんの発達や、お母さんの育児ストレスとの関係について研究を進めており、博士論文としてまとめています。この研究結果を、少しでも将来の小児科の現場に還元して、発達支援や育児支援につなげていきたいと考えています。

心理職をめざした理由

小学校高学年のころ、自由課題でミューラー・リヤーの矢印の錯視図形(同じ線の長さだが、矢印の向きによって長さが異なって見える)やルビンの盃の反転図形(見かたによって、人の横顔だったり盃に見える)を取り上げたときに関心をもちました。後に、心理学という学問は、人の心について学ぶだけでなく、そのような目の錯覚についても学ぶことを知り、面白い学問だと思い、漠然と興味をもちました。父が大学で心理学を学んでいたこともあり、自宅に『心理学の基礎知識』をはじめ、心理学の書籍があったことも興味をひくきっかけになりました。その後、高校生のころに、旧文部省が「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」を開始し、初めて臨床心理士などの「心の専門家」をスクールカウンセラーとして全国の公立学校に配置しました。その出来事をニュースで知り、漠然と興味をもっていた学問としての心理学と、臨床心理士という職業が結びつき、心理学部で学びたいと考えるようになりました。大学で心理学を学んだ後は、臨床心理士指定校である明治学院大学大学院の修士課程に進み、修了しました。修了後は、臨床心理士資格を取得して、小学校や中高一貫校のスクールカウンセラーとしての勤務や、単科の精神科病院の勤務を経験しました。その経験の中で、より早期の、乳幼児期の親子の心理臨床に携わりたいと考えるようになり、ご縁をいただき、現在の職場に至っています。

実際になってみて

実際に心理職になってみて、「心」を扱う専門職として働くことの責任と重みを感じています。常に現場のほかの専門家(学校ならば教師、病院ならば医師・看護師など)と連携して仕事を行うことが多く、また圧倒的に心理職が少数であることが多いので、その中で心理士としての見かたをどのような言葉を使って伝え、どのような動きかたをしていくとよいのか、試行錯誤をすることも多いです。それだけに、多職種でうまく連携ができたときの喜びも感じています。
心理職の中でも、現在働いている周産期の現場では、NICUに入院した赤ちゃんやご家族を前にして、“ doing ”(何かをすること)よりも、“ being ”(そこに居ること)が大事であるといわれますが、何年経験しても、とても難しいことだと感じています。

これから

現在の職場で、小児科および周産期領域の心理臨床を継続して深めていきたいと考えています。また、それと同時に、日常的に臨床の中でご家族がふとお話される話題や困りごと、赤ちゃんやお子さんの様子を見ていて自分の心のアンテナに引っかかったことをテーマに研究として掘り起こし、実施していく研究者の姿勢も継続してもっていきたいです。臨床と研究、バランスを取ることがなかなか難しいですが、心理士の視点から研究を行うことに理解を示してくださる現在の職場環境に感謝しつつ、それを少しでも両立させていきたいと考えています。

心理職に就きたいと思っている学生へ

自分の「心」をつかって相手の「心」の支援をする心理職は、今まで自分が持っていた価値観を揺るがされたり、視点を転換することを迫られたりすることの連続です。それとともに、自分の「心」が道具であり、拠りどころでもあるので、絶えず自分の「心」のありようを見つめることを求められる、“ しんどい ”部分もあります。そのため、楽しいことも、思い通りにいかないことも含めてさまざまな経験をしながらも、「それで、そのとき、自分はどう感じたのだろう?」という瞬間を少しだけ大切にしてみてください。心理職になるためには、と今からあまりこだわらず、自分が興味をもっているスポーツに打ち込んだり、本、映画、自然、芸術に触れたり、自分と価値観や年代、文化が異なる人とも話をする中で、いろいろな体験を積み重ねていくこともよいのではないでしょうか。心理職としての専門的な知識は、大学生や大学院生になってから、あるいは職に就いてからでも十分吸収できるので、焦らなくてもよいと思います。

1週間のスケジュール

月曜日・水曜日・木曜日・金曜日:大学院に行って、研究をしています。具体的には、調査で集めたデータを集計して、統計的手法によりさまざまな角度から分析をしたり、それをもとに論文を書いたり、研究について指導を受けたりしています。現在は一つひとつの研究をつなぎ合わせて、博士論文としてまとめる作業をしています。
火曜日:国立国際医療研究センター小児科において、臨床心理士として働いています。

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