第4回 心理職の産休・育休について考えよう~知っておきたい制度と働く人の権利~|そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?

福島通子社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
福島通子

Q.産休・育休取得時にはどんな制度を利用できるのでしょうか? 非常勤でも取得できる制度について教えてください。

A .
「産休」は、すべての出産する者が対象となりますので、非常勤であっても当然に取得できる休業です。出産予定日の6週間前(双子以上は14週間)から、出産の翌日~8週間まで(本人が請求し医師が認めれば6週間)休業できます。産前休業開始時期は体調によって遅らせてもかまいませんが、産後はしっかりと休業しなければなりません。

産休と育休は連続していますが、制度としては別のものです。条件を満たせば、雇用形態にかかわらず産休の後に育休の取得ができます。

「育休」とは、1歳に満たない子どもを養育する男女労働者が申し出れば、子どもが1歳(保育所が見つからないなどの場合は最長2歳)になるまで休業できる制度です。令和3年6月9日公布の改正育児・介護休業法では、男性の育児休業取得促進のため、子どもの出生後8週間以内に4週間まで育児休業が取得可能になります。また、現在は、産休は正社員でも非常勤でも取得することができますが、育休は1年以上雇用され、引き続き雇用される見込みであることが要件となっています。令和4年4月1日よりこの要件も緩和され、「1年以上雇用」という要件が撤廃(労使協定により除外可)されます。

なお、日雇い契約の者は対象外となり、1週2日以下の所定労働日数で雇用契約を結んでいる場合にも労使協定により除外される場合があります。

産休期間は健康保険の被保険者に対し「出産手当金」が、出産時には「出産育児一時金」が、育休期間は雇用保険の被保険者に対し「育児休業給付」が支給されます。

Q.雇用条件を書面で確認しておくことはなぜ大切なのでしょうか? 法律や制度としての根拠もあれば教えてほしいです。

A .
働くときに重要な判断材料となるのは賃金や労働時間などの雇用条件です。この雇用条件については、労働基準法第15条において「絶対的明示事項」として書面で通知しなければならない項目です。「雇用契約書」または「労働条件通知書」などを使用者が交付し、労働者が合意して雇用契約が成立します。

法令順守とともに、労使間で起こり得るトラブル防止のためにも、同じ認識を持つことはとても大事なことです。たとえば週の所定労働日数について、2~3日という約束をしたとして、週2日なのか3日なのかによって、育休の取得に影響する場合が出てきます。年次有給休暇の付与日数も異なってきます。いわゆる「口約束」ではなく、明確な雇用条件を書面で残すことを徹底しましょう。

Q.クライアントを持つ職業(弁護士、医師、税理士など)で、一人職場である場合、担当しているケースの引き継ぎなどはどのように進めればスムーズにできますか? またそれを職場の他職種に理解してもらうためにどう交渉していけばよいですか?

A .
引き継ぎはどんなに時間をかけても完全ではないことがほとんどです。よって、引き継いだ後、わからないときには何を見たらよいのか、誰に聞けばよいのかについてしっかりと伝達していくことが重要です。やらなければならない業務内容は多岐にわたるとしても、過去の書類がきちんと整理されていれば、その書類を紐解くことでおおよその理解はできるはずです。過去書類がどこにどのように保管されているのかをわかりやすくしておくとよいでしょう。

さらに他職種を巻き込んで引き継ぎをしなければならない場合は、できるだけ早めに知らせ、協力を仰ぐのが望ましいと考えます。一人で見ていると気が付かないことも、担当が代わったり、他職種のサポートなどによって気付くという利点もありますので、ネガティブにとらえるのではなく、より多くの目でクライアントを見ることができると考えて引継ぎをすることが良いのではないでしょうか。

Q.非常勤(年更新)の場合、職場に産休・育休を取得した前例がなく、人事担当者も詳しくありません。どこに相談し、どのように話を進めればよいでしょうか。

A .
産休に関しては、労働基準法第65条に基づく休業期間ですから、職場にその前例がないとしても、当然に休業すべき期間です。産休中は賃金が支払われないため、健康保険から「出産手当金」が支給されます。必要な期間の休業を申し出て、出産の準備や産後の休養にあててください。

育休に関しては、全員を対象とするのが望ましいですが、対象者を選択することができます。法に基づき、入社1年以上でも、1年6カ月以内(もしくは2年)以内に雇用契約が終了することが明確であれば除外する場合があります。さらに、労使協定を結んで1週2日以下の勤務の職員を除外する場合もあります。それ以外の有期契約の非常勤職員は対象になりますので、申し出を行い必要な期間の休業を取得してください。

勤め先の人事担当者も詳しくないときは、労働局の雇用環境・均等部(室)などに相談することもできます。また、「女性の活躍・両立支援総合サイト」「仕事と育児カムバック支援サイト」「妊娠・出産をサポートする 女性にやさしい職場づくりナビ」などのWEBサイトなどもありますので、参考にしてください。

Q.マタニティハラスメントにあったときは、どう対応したよいでしょうか。

A .
かつては妊娠がわかると女性は退職し、育児に専念することが一般的でした。現在は育児と仕事を両立させることが当たり前になってきましたが、これに対応しきれない職場や周りの人がマタニティハラスメントを起こしてしまうのです。

マタニティハラスメントは男女雇用機会均等法および育児・介護休業法により、妊娠・出産・育児を理由に女性が不利になる扱いを禁止しています。マタニティハラスメントが起こる原因として、管理職層をはじめとする同僚の無理解が挙げられます。対処法としては、できるだけ職場内でルールや体制を整備し、気兼ねなく相談できる窓口を作り、安心して働ける環境を整えることが大事です。

マタニティハラスメントが起こってしまった場合は、事業所内の相談窓口に相談するか、労働局などの公的な機関に相談してみるとよいかと思います。事実確認をしたうえで、ハラスメントの状況によっては、就業規則等に則り懲戒処分の対象となったり、訴訟に至ったりする場合もあります。

Q.非常勤の場合、妊娠・出産を経て復職する道がなく、退職を余儀なくされます。職場とどのように交渉すれば雇用を継続できるでしょうか。

A .
男女雇用機会均等法第9条は、非常勤であっても妊娠・出産を理由に解雇などの不利益な取り扱いをすることを禁じていますが、休んでいる者の代わりの人材を確保しなければならない、あるいはほかの同僚に仕事を割り振ることで仕事量が増えるなど、歓迎されない状況が生まれることも事実です。

しかし、非常勤であっても取得条件に該当する者であれば産休・育休は与えられた権利ですので、まずは産後も復職して仕事を続けたいと申し出て、休業をすることです。非常勤であっても戦力であり、周囲とのコミュニケーションがうまくとれていれば、好意的に理解してもらえると思われます。

産休・育休に難色を示す場合は、各都道府県の総合労働相談コーナー労働基準監督署などに相談するなど、第三者に相談して介入してもらうことも可能です。ただし、そこまでしないと態度が変わらないような事業所はほかの労働環境にも問題がありそうですので、将来的にその職場で働き続けることが有益なのか、慎重に検討する必要もあるでしょう。

 

【参考文献】
1)厚生労働省.育児・介護休業法について.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html(2021年7月5日閲覧)


著者プロフィール
福島通子(ふくしま・みちこ)
特定社会保険労務士。認定登録医業経営コンサルタント。経営学修士(MBA)。
医療機関、介護・社会福祉関連事業所、一般企業などの労務管理について助言・支援を行うとともに、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」構成員他、厚生労働省委員会委員を多数歴任。2019年3月まで明治大学兼任講師「福祉医療マネジメント論」。講演及び執筆活動(WEB記事を含め)なども行う。

 
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