【Report】日本精神神経学会 第7回精神科臨床における多職種チームの活かし方フォーラム
「多職種チームとして公認心理師に期待すること 公認心理師から発信したいこと」のテーマで、2019年2月10日に名古屋市内で開催された。幅広い職種から多角的な観点で講演があり、グループディスカッションでは活発な意見交換が行われた。司会を務めたのは米田 博先生(多職種協働委員会委員長/大阪医科大学医学部神経精神医学教室)。約120名が参加し、医師、看護師、精神保健福祉士、心理士など多職種が集った。
カウンセリング・マインドを持った公認心理師に期待
はじめに登壇した西松能子先生(あいクリニック神田/立正大学心理学部・精神科医)は、「公認心理師と精神科クリニック」と題し、医療における法律上の公認心理師の役割を示した。公認心理師は看護師などと異なり、医師の医療補助職と規定されていない。しかし、主治医がいる場合はその指示を得なければならないと公認心理師法で定められたため、病院や精神科クリニック では医師の指示のもとで心理療法を行う必要がある。都市部の精神科クリニックでは、発達障害の精査、軽度発達障害や適応障害など薬物療養のみでは対処困難なケースへのアプローチ、院内協働へのアプローチへのニーズが増加しており、心理職の必要性は高まっている。西松先生は、心理職の業務の実際を具体的な例を出して説明し、公認心理師に望むこととして、「カウンセリング・マインドを持ち、社会的な活動の中で役割を果たしながら現場で即戦力として働いてほしい」と述べ、そのためにも国がインフラをいかに整えるかが重要であるとの見方を提示した。
多職種チームを成熟させていく存在に
西村勝治先生(東京女子医科大学医学部精神医学講座・精神科医)は、大学病院・総合病院で公認心理師が担うべき役割について話し、チーム医療の中で公認心理師がいかに有機的に機能していくか、そのためにはどのように精神科医との連携システムを構築し、リエゾンチーム内、特にリエゾンナースと協働できるかが鍵となると語った。一例として、心疾患患者がうつ病を合併するケースが多いことに触れ、同院の循環器内科との多職種カンファレンスの取り組みを紹介した。また、海外における協働ケアを紹介し、トレーニングを受けた看護師や心理職が“うつ病ケアマネジャー ”となり、患者を精神的にバックアップすることで、うつ症状・身体機能ともに大幅な改善が認められたという結果を示した。多職種チームの中で公認心理師は単にチームの一員となるだけでなく、多職種とともにチームを成熟させるプロセスに積極的にかかわるべきとの見解を述べた。
「支援の可視化」を行っていくことが必要
花村温子先生(独立行政法人 地域医療機能推進機構埼玉メディカルセンター心理療法室・臨床心理士)は、同院で実践している個人カウンセリングや心理検査、集団精神療法などを紹介した。花村先生は、精神科医に心理士の役割を理解してもらうための活動を行ってきたことを背景に、心理士のできる支援を可視化することが多職種チームの一員として重要だと述べた。また、公認心理師育成の今後の課題として、複数の心理支援ツールを学べる教育の充足、養成教育カリキュラムや実習教育の質の均一化、卒後教育の整備などを挙げ、保健所や地域包括支援センターなど地域拠点への配置を進め、病院と連携しながら地域における心理支援を提供していくことの必要性にも言及した。
看護師のケアと心理士のケアの両面から患者を支える
福岡雅津子先生(滋賀県立精神医療センター・精神看護専門看護師)は、外来看護相談での「摂食障害患者」と「自閉症スペクトラム症患者」のケースを取り上げ、面接時のアドバイスや気をつけている点、改善した点や成果などを説明した。看護師として、患者との関わりでは「生活の中の一部として症状をとらえるため、あえて本人がしんどいと思っていることは深く掘り下げず、今困っていることができるようになるよう、指示ではなく支持していくこと」を大切にしているという。「心理士とは互いの役割を明確にしているわけではないが、同じ山に登る、その登り方が違うのでは」との考えを述べ、協働の必要性を強調した。
薬剤師にとってのメリット~医療薬学の観点から~
中村友喜氏(三重県立こころの医療センター・薬剤師)は、精神疾患には薬剤管理指導だけでなく患者や家族の思いを理解した心理教育が必要と話し、多職種チームは互いの意見に耳を傾け、考え方や価値観を共有することが重要とした。また、三重県の精神科治療に携わる多職種スタッフによる「みえ精神科臨床研究会」を立ち上げたことを報告し、公認心理師と薬剤師との協働により、薬剤師にとっても医療薬学のさらなる充実が可能だと述べた。
連携することで対象者のさらなる理解が進む
朝倉起己先生(特定医療法人共和会共和病院・作業療法士)は、医療現場での各職種の業務分担や「国際生活機能分類(国際障害分類)」をもととした職種による得意分野を提示し、作業療法士は「活動」「参加」を促進する役割をもつ一方、公認心理師は「心身機能&構造」の強化に関わる役割をもつことを示した。したがって、両者が連携・協業することで、さらなる対象者理解につながり、生活行為の獲得や自己実現の達成に貢献できる。最後に、同院での統合失調症症例への作業療法の実際を紹介し、「今後は公認心理師とともにチームで対象者理解を深めながらリハビリテーションを深めていきたい」と方針を語った。
公認心理師のコンサルテーションに栄養情報を
西宮弘之先生(公益財団法人積善会曽我病院・管理栄養士)は、公認心理師と管理栄養士との連携において、公認心理師のコンサルテーションの項目に患者の栄養情報を追加することで、適切な時期に管理栄養士が栄養指導を行うことができると説明した。管理栄養士と公認心理師が情報交換しながら連携を深めていけば、患者の栄養状態からも精神状態がつかめる可能性があるのではないかと考察し、管理栄養士と公認心理師との連携の在りかたを検討していきたいと述べた 。
“その人らしい生活”を支援するために
澤野文彦先生(公益財団法人復康会 沼津中央病院医療相談課・精神保健福祉士)は、精神保健福祉士の専門性(価値)を紹介し、多職種協働の中での公認心理師の役割として「生育歴の聴収、心理アセスメント、思考パターン・能力評価、対処能力の向上、これらのための面接、他職種への発信・協働」を挙げた。資格取得後は自己研鑽を積極的に行い、「ぜひ病棟や外来で専門性を活かした介入と発信をしてほしい」と期待を込める。また、他職種からどう見られているのか、自分たちには何ができるのかを知るためにも多職種で行う研修への参加を提案した。“その人らしい生活”を支援するためには、医療や福祉、そしてさまざまな機関との連携が欠かせない。チームで一丸となってその目標を達成していくための連携・協働の必要性をあらためて訴えた。
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本フォーラムの最終プログラム「グループディスカッション」では、畠山卓也氏(駒沢女子大学看護学部)の司会により13チームに分かれて実施。
「公認心理師の役割について」「公認心理師が多職種チームの中で役割を発揮し協働していくために」などのテーマで参加者による熱いトークが展開された。最後に各グループのディスカッション内容が共有され、本フォーラムは締めくくられた。
グループディスカッションで挙がった話題(一部抜粋)
・心理検査結果の情報共有(どこまで共有するのか、カルテにどう書くのか)
・心理検査実施時の算定
・積極的なコミュニケーション(医師に遠慮せずに発言してほしい)
・多職種チームのコーディネーターとしての役割
・医療者のメンタルヘルスへの支援
・病棟配置基準の設置
・研修システムの整備 など