心理学の知識に裏付けられた援助ができる専門職としての公認心理師に

心理士として開業し、洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長を務める伊藤絵美さん。公認心理師に求めるものや、専門である認知行動療法の実践などについて話を伺った。

 

―― 心理士の国家資格である、公認心理師資格の創設をどのように受け止めておられますか。
伊藤 心理学に基づく援助ができる国家資格ができたこと自体は、とても大事だと思っています。開業している私自身はそれほど感じることはありませんが、病院で勤務する心理士は、これまで国家資格を持つ他職種に囲まれて仕事をしていて、つらいことも多かったのではないかと想像しています。

 

―― さまざまなバックグラウンドを持つ方が公認心理師となっています。そのため、心理学を十分に学ぶ機会がなかった人もいるようです。
伊藤 心理学の国家資格ですから、本来は、心理学を十分に学び、実践できる人が取得すべきだと思っています。ただ、今は過渡期ですよね。心理学の知識やスキルによらず、スタートは一緒です。ユーザーは「心理の専門家」として見ているのですから、「公認心理師ですが、心理学は分かりません」では困ります。心理学をしっかりと学ぶ機会のなかった有資格者の方は、これから基礎的な知識を身につけていただきたいと思います。

 

―― 心理の大学院を修了していても、たとえば先生の専門である認知行動療法を全く学習しないカリキュラムの大学院もあります。社会に出てから心理士として新たな知識や技術を身につけるにはどうすればよいでしょうか。
伊藤 認知行動療法で言えば、まず一番重要なのは、基礎的なテキストを読むことです。それすらも読まずに認知行動療法を実践しようとする方もいて、非常に恐ろしいことだと感じています。

認知行動療法であれば、認知療法の創始者であるアーロン・ベックやその娘のジュディス・ベックが書いた基礎的なテキストを読むことです。そのテキストの参考文献をたどっていくと、認知行動療法に限らず、心理学的アプローチを勉強するために絶対読まなくてはいけない本を知ることができます。まず、そこから始めてほしいと申し上げたいですね。

もちろん、本を読んだだけでは実践することはできません。さらに、学会が主催しているワークショップや研修を探し、受講することが必要です。

 

―― 本を読み、研修に参加すれば、認知行動療法などが身につき、実践できるようになるでしょうか。
伊藤 認知行動療法やスキーマ療法に限って言えば、自分で使ってみることが非常に大切です。特に認知行動療法は、ストレスのセルフケアのツールとして有効です。心理士自身が自分のセルフケアに認知行動療法をしっかりと使いこなし、いわば、自分の体を通してこの療法の使い勝手や効果を体感しておくことに大きな意味があります。

正直なところ、認知行動療法はホームワークなど書き物が多く、負担に思うこともあります。そうした部分も含めて自分で体験する。そして手間はかかるけれど効果があることを知っておく。そうすることで初めて、ユーザーに提供できると思うのです。ワークショップなどに参加して学ぶときも、この療法を提供する側としてだけでなく、使う側としての視点も持って学んでいただけるとよいと思います。

 

―― 自分自身で使ってみると、認知行動療法の見方が変わりますか。
伊藤 セルフケアのツールとしてかなり強力なので、心理士自身がとても助けられます。当オフィスのスタッフもみな自分で認知行動療法を行っています。私自身もそうですが、「人生のピンチに陥ったときに、とても助けになった」と、みな言っていますね。そうした経験があると、ユーザーに対しても、こんなふうに助けになるんですよと、実感値で伝えていけると思います。

もう一つ言えるのは、正しい実践方法を身につけるためにスーパービジョンを受けるのが大切だということです。当オフィスにも、多くの心理士が担当ケースのスーパービジョンを受けに来ています。また、精神分析における教育分析のように、心理士自身が認知行動療法のセラピーを受けに来るケースも少なくありません。自分自身がセラピーを受けて、認知行動療法の効果が “腑に落ちる” 体験をしてから、ユーザーに提供することも大事だと思います。
※現在は、スーパービジョンの受付を休止中。

 

―― たしかに、自身で腑に落ちる体験があれば、ユーザーに対しても説得力がありますね。
伊藤 認知行動療法は、セルフヘルプの方法を学ぶものですから、習い事のようなところがあると思います。ホームワークがあり、さまざまなエクササイズがありますからね。ヨガや料理など習い事の先生が、教えられるけれど自分ではやったことがない、ということはあり得ません。それと同じだと思います。

 

―― 認知行動療法は、看護師など心理士以外で実践する方も増えてきています。
伊藤 今はチーム医療が推進されていることもあり、医師以外では看護師さんによる認知行動療法に診療報酬が設定されています。心理士に限らず、きちんと認知行動療法を学んだ医療職や援助職が実践することは何の問題もないと私は思います。

 

―― だとすると、心理士が認知行動療法を実践する意義はどういうところにあるでしょうか。
伊藤 心理学が実践のベースにあることです。ほかの職種は、自分の専門性の上に認知行動療法をプラスして、専門性の実践の中で生かしていくことになります。一方、心理士は学習心理学や認知心理学など、基礎心理学の知識の裏付けを持って実践していくことが強みになるはずです。繰り返しになりますが、ユーザーは、心理士を心理学の専門家と見ています。ですから、心理士は認知行動療法のもとになっている基礎心理学の知識をきちんと身につけ、裏付けを持ってユーザーに話ができるように勉強しておく必要があるのです。

 

―― 最後に、これから公認心理師を目指す方に一言アドバイスをお願いします。
伊藤 心理士は人を相手にする仕事ですから、心理学の勉強をしっかりするだけでなく、いろいろな人と関わり、さまざまな価値観に触れてほしいですね。自分と全く違う価値観を持つユーザーが来談してもきちんと理解し、その方の持つ価値観に沿って、その方らしく生きられるよう援助できる心理士になってほしいと思います。

 

(インタビュー・文:介護福祉ライター/公認心理師・臨床心理士・社会福祉士 宮下公美子)


伊藤絵美 Emi Ito
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス
所長

大学時代は基礎心理学を専攻。認知心理学をベースに、エビデンスに基づいた心理支援を提供する。認知行動療法、スキーマ療法等の普及にも尽力しており、多数の著書がある。

 

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