【わたしのヒストリー】大切なステージに寄り添う仕事
社会福祉法人恩賜財団済生会横浜市東部病院
心理室 臨床心理士
高野公輔
いまの働きかた
私は横浜市の中核病院、いわゆる総合病院で、こころの病気を抱えている患者さん、身体の病気になったことをきっかけにこころの不調をきたしてしまった患者さんを支援する心理専門職として働いています。終末期の患者さんだけでなく、病気の告知を受けてショックを受けている患者さん、大変な思いをしながらも治療に取り組んでいる患者さんなど、患者さんによって病期もさまざまです。患者さんのほかにも、患者さんの家族や医療スタッフのこころの支援をすることもあり、病院に関わる人すべてが対象となります。
また、医療チーム(精神科リエゾンチーム、緩和ケアチームなど)の一員として回診やカンファレンスに加わっています。医師や看護師などのほかの専門職と情報共有や議論をしながら、患者さんが少しでも安心して治療が受けられるようにお手伝いをしています。このように、対応やケアの提案など、他職種に間接的な支援をすることも多くあります。
心理職をめざした理由
高校生のころ、祖父ががんになったことをきっかけに、身体の病気を抱えた患者さんやその家族の支援に興味を持ちはじめました。ただ、当時は漠然としたもので、大学進学の際にはシンプルに「面白そう!」という理由で心理学を学ぶことを選択しました。大学で心理学を勉強するうちに「もう少し勉強してみようかな」と思い大学院へ進学し、修了後に臨床心理士の資格を取得しました。在学中に大学・大学院の先輩方にとてもお世話になり、「先輩のような心理士になりたい」と思えるモデルが身近にいてくれたことも大きかったかもしれません。資格取得後、現在の病院に就職し、結果的に高校生のころに抱いた興味が今の仕事につながっています。振り返ってみると、祖父の病気以外にも、心理職として働いていることにつながっている出来事がたくさんあったように思います。
実際になってみて
人のこころに関わる仕事をすることの難しさを日々感じています。心身に病気を抱えている人、大変な治療を受けている人、大事な人を亡くそうとしている人、亡くされた人。そういった大変な(大切な)ステージにいる人々のこころに関わるというのは、心理職として働く前に想像していた以上に難しいことでした。一方で、そのようなステージだからこそ、病院という場で、他の専門職と協働しながら私たち心理職がお手伝いできることもあるように思います。
これから
私たちが働いている総合病院でも、心理職がお手伝いできることはたくさんあります。しかし、現場のニーズに応えられるほど心理職のスタッフが多くなかったり、このような現場で働けるようになるための教育・訓練が十分でなかったりしているのが現状です。心理職の活動がどのように患者さんや患者さんの家族、他職種の役に立っているのかを明らかにすることや、心理職が総合病院で働くための教育・訓練を充実させることが必要だと思います。
心理職に就きたいと思っている学生へ
心理職の働く場は幅広く、臨床現場によって「はたらきかた」が違ったりもします。学生のうちにさまざまな領域の「現場」を見ること、「現場」で働いている心理職の生の声を聴くことは貴重な体験になると思います。一つの専門性を究めようとすることも大事だと考えますが、学生のうちに幅広い知識や経験を積み重ねておくことが、心理専門職として働く際に役立つのではないかと思っています。