求められるのはチームで仕事をする力|産業保健の現場から

本連載では、産業保健の現場で働く保健師の皆さんのこれまでの歩みとともに、産業領域における看護師・保健師の役割ややりがい、実際を紹介いただきます。


ブラザー工業株式会社
人事部 安全防災グループ
健康管理センター 
保健師
藤村 美里

企業で働く保健師を目指した理由

産業保健師としてブラザーグループで働く約7,000人の従業員の健康支援を行っています。

産業保健師を目指すことになったのは、家族のある出来事がきっかけでした。私の父親が、管理職という責任感から仕事を頑張りすぎて倒れてしまったのです。そのとき、体調を崩してまで働くのは本当に幸せなことなのかと強く疑問に思ったことを今でも覚えています。

ちょうどそのころ、企業内で働く産業保健師の先輩の話を聞く機会があり、産業保健師になってその疑問に対する答えを見つけようと思いました。

企業内で働く保健師の役割

産業保健師の役割は、入社から退職まで、長期にわたり支援できる産業保健師の強みを活かし、単に病気がないことを目指すのではなく、その人らしくイキイキ働けるよう支援することだと思います。また、健康経営の考えにもあるように、従業員一人ひとりのイキイキ度が高まれば、企業の生産性の向上にもつながります。

このように、一個人への支援だけでなく、集団・組織など幅広い視野をもって活動を行うことも産業保健師の大事な役割です。

産業保健活動の魅力

メンタルヘルスの分野では、個人と集団、組織それぞれの視点で予防活動を行っています。

個人へのアプローチは、心の相談対応です。弊社では、産業医と保健師がペアとなり相談対応を行っています。その理由は、相談者が安心して心を許せる「場づくり」が重要だと考えているからです。

産業医は父親的存在で緊急性や就業継続の判断を、保健師は母親的存在で相手に寄り添い傾聴するなど役割を分担しています。もちろん固定的な役割ではなく相手に応じて変えていきます。私は保健師として、まずは勇気を出して相談してくれたことを感謝し、自分らしく働き続けるためにはどうすればよいかを一緒に考える姿勢を大切にしています。

集団へのアプローチは、メンタヘルスセルフケア講習です。全従業員が定期的にセルフケア講習を受講するように、5歳ごとの節目年齢で受講する仕組みを構築しています。セルフケア講習の内容は、心の病気を正しく理解し、自分のストレスに気づくことをねらいとしています。実際に講習を担当して感じたのは、社内に気軽に相談できる存在がいることを知ってもらう大切さです。

以前は職場に診断書が提出された後に対応する場合が多かったのですが、講師を務めるようになってからは、むしろ悩みの初期段階で相談してくれる機会が増えたように思います。病気になる前に未然に介入できることはやりがいにもつながります。

組織へのアプローチは、ストレスチェックの集団分析後の職場への介入です。ココカラ活動(こころとからだの支援活動)と称し、集団分析結果をもとに、管理職と産業医・保健師と職場の健康度について対話する場を作っています。

そこで大切にしているのは、結果の数値にとらわれることなく、集団分析結果というツールを使って、今職場で何が起きているのかを話し合うことです。対話によって職場の課題だけでなく職場が持つ強みを理解し、職場環境改善につながるアクションを考えることができるようになります。

そのほか、産業保健師はメンタルヘルスの分野だけでなく、健康診断の事後措置や保健指導、職場巡視、健康づくり活動、禁煙支援など、多岐にわたる業務を担当しています。だからこそ、従業員の置かれている状況を多面的に把握でき、さまざまな視点からアプローチできることも企業内の産業保健師の魅力だと思います。

企業で働くために必要なスキル

産業保健師に求められるスキルは、チームで仕事をする力です。個別に受けた心の相談であっても、産業保健師一人で対応を完結するケースはほとんどありません。相談に来た従業員の業務内容や職場状況の理解を深めるために上司と連携することもあれば、産業医や人事労務と相談しながら元気に働き続けるための支援を考え、ときに従業員の家族とも連絡を取り合います。

一筋縄ではいかない困難事例では深く悩んでしまうことも多いのですが、そんなときこそ、どうしたらその人らしく働くことができるのか、今何を必要としているのかを考えるようにしています。

社内外の多職種と連携することによって活路が見いだせることもあり、保健師一人で抱え込まずに広い視野を持つことが非常に重要です。普段から、社内のスタッフ同士の研鑽だけでなく、外部の研修会や学会などに出かけて学習の機会や交流を持つことを大切にしています。

 

~略 歴~
2015年3月 産業医科大学 産業保健学部 看護学科卒業
     同年4月 ブラザー工業株式会社保健師として入社 現在に至る

 


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