ユング派の心理療法|心理士が選ぶ!公認心理師試験で押さえておきたいトレンドキーワード

ユング派の心理療法

ユング(C. G. Jung)は、クライエントとセラピストが互いに影響し合うコミュニケーションを対話と呼び、「弁証法的な手続き 」として治療において大切なものと考えました1)。この対話を重視する治療姿勢は、その後の心理療法の歴史に大きな影響を与えています1)

ユングは、心が意識と個人的無意識、集合的無意識という3つの領域でできていると考え、無意識のもつ建設的な働きを強調しました2)。そして「意識と無意識は互いに補い合うものであるという相補性と心の全体性」に関心を持ち続け、それを「自己」という「相反するさまざまな要素の中心に位置し、あらゆる心の働きを統合する」という概念にまとめあげました3)

ユングは「自己実現」ないし「個性化」を人生の究極の目標として考え3)、 この 「本当に自分らしい自分になる」過程で無意識の世界に触れることになるとしています1)。そして夢や絵画、箱庭といったイメージで感情を表現することにより無意識の領域に触れ、クライエントを治癒に導くという治療方法を確立しました1)。これは、人には民族や時代を超えて受け継がれてきた普遍の無意識のイメージ層(元型・アーキタイプ)があること、神話を失った現代人に必要なのは「個人の神話」の発見であること、これが達成されれば心の問題は本当の意味で治癒するという考え方がベースにあります1)

予想問題を解いてみよう!

問題:ユング派の心理療法の考え方として、誤っているものを1つ選択せよ。
①ユングはクライエントとセラピストの対話を「弁証法的な手続き」として、治療において重視した。
②ユング派の心理療法では、夢は意識を補い神話と共通するものとして考え、夢分析を重要なものとしている。
③ユングは、人間の心は意識と前意識、無意識の3層からなると考え、意識と無意識は対立的な関係として扱う。
④ユング派の心理療法では、人生の究極の目的として「自己実現」と「個性化」を挙げている。
 

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正答:③
①ユングのいう対話には、自分自身との対話と他者との対話の両方を含む1)
②ユングは、起きているときには「意識」に頼っているが、寝ている間に「無意識」が夢となって現れることで心のバランスを取っており、夢は意識を補うものとして重要視した。夢分析はフロイト(S. Freud)が創始したことが有名であるが、フロイトは夢に抑圧されている欲求が形を変えて現れているとしている1)
③設問の内容はフロイトの考え方である。フロイトとユングは、意識と無意識の関係を対照的にとらえ、その考え方の違いや心理療法に対する意見の違いから決別している。決定的な違いは、フロイトが意識と無意識は対立的な関係であり、無意識を否定的にとらえたのに対し、ユングは、意識と無意識は互いに補い合っていると考え、無意識のもつ建設的な働きを強調したところにある1)
④ユングは意識と無意識の相補性と心の全体性に関心を持ち続け、それを「自己」の概念にまとめた。その意味で、自己はユング心理学の中核的概念である3)

 
【引用・参考文献】
1) 福島哲夫.面白くてよくわかる!ユング心理学:ユングの生い立ちから理論まで、すべてがわかる大人の教科書.東京,アスペクト,2009,200p.
2)中島義明ほか.心理学辞典.東京,有斐閣,1999,825.
3)前掲書2.860.
 
(構成・文/公認心理師 本原 圭)
 
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