Report|公認心理師のなり方・働き方:心理職の実際を知ってみよう!-和光大学公開シンポジウム
和光大学では、2020年4月より大学院に心理学専攻心理学コースを新設する。心理学コースでは、「公認心理師」の資格取得に対応したカリキュラムを編成する。特徴的なのは本学教員が受験勉強をサポートすることだ。国家試験対策科目「公認心理師特論」を開講し、受験対策を行う。
2019年12月14日には新コース設置にあたって公開シンポジウムが開催された。公認心理師をめざす高校生・大学生を対象としたシンポジウムの様子を紹介する。
公認心理師のなり方
髙坂康雅先生(和光大学)は公認心理師制度の概要と現状をあらためて整理したうえで、進学先の選び方にも言及した。
◆公認心理師制度の概要と現状
「公認心理師法」には、国民全体が公認心理師の支援対象だと記載されている。つまり、すでに心の病気になっている人だけではなく、病気になる前の予防も対象に含まれる。貧困や外国籍の人の支援、発達障害や幼児の就学支援など、現代の課題への介入も期待されていると述べた。
公認心理師と他の心理系資格の大きな違いは国家資格であること。国家資格であることは、カウンセリングを受けるクライエントに対する信用の証となるという。
実際、医科診療報酬や東京都スクールカウンセラー募集条件、児童心理司の任用資格など、多様な場面で「公認心理師」の表記が追加されたことを取り上げ、これから心理職をめざすのであれば取得しておくべき資格だと話した。
◆公認心理師になるための進学先選びのポイント
大学に入学し公認心理師になるには2つのルートがある。髙坂先生は、大学・大学院を選ぶ際には下記の点をしっかりとチェックしてほしいと述べた。
【大学への進学を考えている方】
・公認心理師カリキュラムに対応しているか
・公認心理師カリキュラムを全員が履修できるか(成績等による選考がある大学もある)
・実習内容
・公認心理師カリキュラムに対応した大学院はあるか
・公認心理師制度に詳しい教員はいるか
【大学院への進学を考えている方】
・公認心理師カリキュラムに対応しているか
・実習内容
・国家試験や就職のサポート体制はあるか
・公認心理師制度・国家試験に詳しい教員はいるか
今後、公認心理師試験のスケジュールはこれまでと比較して前倒しとなり、第7回(2024年)以降は2月ごろに実施することが予定されている。つまり、いずれ大学院2年生は、実習、修士論文作成、就職活動、国家試験対策に追われることになる。
現状、国家試験対策は院生が自力で努力することになっている。予備校に通ったとしても高額の授業料がかかる。「学生をサポートすることも大学の役割」と髙坂先生は訴え、和光大学でのサポート体制を紹介した。
公認心理師の働き方
シンポジウム後半では、主要5分野で活躍する心理職から、仕事の実際ややりがいなどが発表された。
医療分野では金田智代先生(鶴が丘ガーデンホスピタル)、教育分野では上野まどか先生(東京都スクールカウンセラー)、産業分野では長船亜紀先生(富士通株式会社)、福祉分野では菅野 恵先生(和光大学)、司法分野では熊上 崇先生(和光大学)が登壇した。
◆患者さんの視点を大切に
精神科病院では、医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなどの多職種が勤務しているが、心理職はいない場合がある。金田先生の勤務先でも、心理士は先生一人だけである。「人数が少ないからこそ、心理士を利用してもらうためには、役割をほかのスタッフに知ってもらう必要がある」と金田先生は述べた。
精神科デイケアでは、患者さんによって就労・復職・復学など目標や目的が違う。「医師の指示のもと動くが、患者さんが中心。生活に寄り添うことで患者さんが見える。患者さんが “なりたい” 像を手伝う仕事」とやりがいを語った。
◆児童・生徒が安心感をもてるように
上野先生は、子どもが「スクールカウンセラーに話すんじゃなかった」とならないように、ふだんから学び続けること、セルフモニタリングを行うことを大切にしている。社会の変化にともない子どもの心のありようも変わるため、常にアップデートが求められる。自分の状態がどう映るのか、相手にどう影響するのかを日ごろから振り返ることが子どもの安心感につながる。
やりがいを感じる一例として、担当教師と共に児童・生徒の問題に取り組めたケースを挙げた。その一方、「生徒の心にそこまで入り込む必要があるのか」と方針が合わないときもあり、教師によって教育観が異なることが難しい点だと述べた。
◆仕事を通じて生きることを見いだすサポート
長船先生は、心理職の活動領域として産業分野は比較的新しく、さらなる参入が期待されていると話す。①個への支援(メンタルヘルス、キャリア発達の支援)、②職場への支援、③会社全体への支援、④社会への提言など業務は多岐にわたる。個への支援では、本人の希望をもとに、中立的な立場・スタンスから “何ができるか” を一緒に考えていく。
産業分野の心理職は「働くこと=生きること」を心理学的なアプローチで支援し、問題を抱えた人はもちろん、抱える前の予防管理にも携わることができる。産業領域のスキルアップには、独立性と独自性を保ちながら、多職種と連携できる力を身につけていくことが重要だと話した。
◆多職種連携による「つなげる支援」
菅野先生は、児童養護施設で子どもの支援に長年携わってきた。担当ケースを振り返り、子どもの漠然とした語りや遊びから何を訴えているかを引き出すこと、他職種につなげることが心理職に求められている役割だと述べた。
福祉領域の対象は児童、高齢者、障害者、その他(引きこもり、貧困、就労支援)など幅広い。心理職が不在で、メインで活躍するのはソーシャルワーカーが多い。職域を開拓するためには、心理職が役立つことを知ってもらい、独自性を伝えていく必要性があるとした。
◆困っている人の状況に寄り添う
熊上先生は家庭裁判所の調査官を務めていた。司法分野の心理職というと凶悪犯罪の心理を探るイメージを持たれがちだが、実際は金銭や家庭での困りごとを傾聴し、支援につなげていく。家庭裁判所の調査官は、離婚や面会交流などの家事事件や少年事件を担当し、当事者、少年らと面接するなどして問題の原因や非行に至った動機などを調査して、解決方法などを裁判官に報告する。
「司法・犯罪領域は特殊なケースだけではなく、生活に密着した問題に取り組む。離婚や面会交流など、多くの人のメンタルヘルスに直接関わる重大なケースを扱う。公認心理師としてぜひ学んでほしい分野」だと締めくくった。
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(取材・文/こころJOB編集室)