家族のケアを担う「ヤングケアラー」に対して、心理士は何ができるか?

最近、よく耳にするようになった「ヤングケアラー」。本来、大人が担うと想定されているような家事や、家族の世話を日常的に担っている子どものことだ。そんなヤングケアラーについて研究する成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子先生に、ヤングケアラー支援において、心理士に期待されることについて話を伺った。

 
―― 澁谷先生は、心理士をどう捉えていらっしゃいますか?

澁谷 実は、私はヤングケアラー支援に関わる援助職の専門分野の違いについては、きちんと認識できていません。たとえばスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーが同じ学校の中でどのように補完し合って子どもの支援をしていくのか、具体的にイメージしきれていないところが多くあります。私個人の体験に基づいた断片的な見方しかできていないので、このような質問に適切に答えるのは少し難しいです。

心理士の方々の勉強会などに参加させていただくこともあるのですが、そのときに感じるのは、私がインタビューをするときと、心理士の方々が話を聞くときとでは、”人の話を聞く” といっても相当に違うということです。私のような研究者が元ヤングケアラーに話を聞くときには、研究協力をしていただくという感じになります。具体的な経験や思いを聞かせてほしいという研究者の期待に対し、その研究目的を知って「協力してもよい」と考えた方がご自分の時間と手間を割いて情報提供してくださるわけで、そのとき、研究者と元ヤングケアラーは、同じ方向を向いて共同作業をするようなところがあります。つまり、ヤングケアラーについてあまり考えたことがない社会の多数派の人々に向けて、何を伝えていけばよいのかを共に考え、既存の社会の制度や価値観を問い直していくような側面を持っています。

一方、心理士は、元ヤングケアラーと並び立つというよりは、むしろ向かい合うという関係性で話を聞く立場にあるのではないかと思います。しかも、専門家とクライアントという枠組みの中で、クライアント側は何らかの期待を持ってお金を出し、心理士はそれに応えてクライアントに役立つものを提供することが求められる構造にあります。対価に見合う何かを返していかなくてはいけないというプレッシャーと戦いながら、相手の方の話を聞き、知識や技術を総動員してそれにフィードバックを返していく、それが心理士という仕事ではないかと感じています。ある意味、クライアントと向かい合うときには、孤独と覚悟が必要になってくるようにも思いますし、そのプロフェッショナルなあり方に敬意も抱いています。

 
―― ありがとうございます。「ヤングケアラー」については、その存在が社会で知られるようになってきたことで、ヤングケアラーを取り巻く状況は変わってきていると思われますか?

澁谷 変わってきているところはあると思います。「ヤングケアラー」という言葉が少しずつ知られるようになってきたことで、たとえばそれまで「学校をよく休む子」としてしか見られていなかった子どもが、「もしかしたら家族の世話をしているのかもしれない」という可能性も考慮して見てもらえるようになるなど、そういうことがだんだんと出てきているのではないかと思います。家族の側も、「ヤングケアラー」という言葉を知ることで、「もしかしたら子どもに年齢の割に重い責任や役割を担わせてしまっているかもしれない」という意識を持つようになってきていることはあると思います。

大変な状況に置かれている家族は、子どもがケアを担ってくれることを当たり前に思ってしまっていることも多いのですが、まわりの人のちょっとした声かけで、子どもには重すぎる負担だったかもしれないと気づき、別の方法を探すようになることもあります。

医師や福祉の専門家も、「ヤングケアラー」という言葉を知ることで、それまで気になっていたことがより強く意識されるようになってきているのではないかと思います。たとえば、おばあちゃんの診察に子どもが付き添ってきたとか、救急車に乗ってきた「家族」が高校生だったとか、家で主にケアを担っているのが中学生ということが気になっていた医療スタッフやケアマネジャーはこれまでにもいたと思うのですが、「あれ?」と感じても、どう対応してよいかわからずに、そのまま大人の介護者と同様に接してしまった局面はあったと思います。しかし、「ヤングケアラー」という言葉が知られるようになってきたことで、何らかの行動を起こして支援につなげようとする動きは出てきているように感じます。

2016年に小中学校の教員へのヤングケアラー調査が行われた神奈川県藤沢市では、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大の影響で学校が一斉休校になったとき、先生たちがヤングケアラーの子どもたちのことも念頭に置きながら、気になる子どもたちの家を訪問したそうです。その後、さらに支援が必要と思われるときにはコミュニティソーシャルワーカー(*1)につなぎ、フードドライブ(*2)などによって食料が届けられるなかで、保護者が支援者と話をするようになっていったケースもあったと聞きました。

これまで、大変さを抱えた家庭では、困ったことがあっても、現状を知られれば「子育てができていない」と批判されるのではないかと恐れ、SOSを出せない状況もあったのではないかと思います。いよいよ問題が深刻化してからやっと支援につながるのではなく、それより手前で支援者とやり取りできるようになったのは、とても意義深いことだと思います。

このように、「ヤングケアラー」という言葉によって、子どもの困りごとに気づける立場の大人たちが具体的に行動を起こすようになり、ヤングケアラーが直面している問題に早めに関わる機会も増えているのではないかと感じます。

 

*1 コミュニティソーシャルワーカー…地域で困りごとを抱えている人を、地域にあるサービスや人材につないだり、新しい支援の仕組みを作ったりすることで、サポートしていく援助職。
*2 フードドライブ…各家庭の未使用の食べ物を地域の福祉団体やフードバンクに寄付する活動のこと。こうして集まった食品は、食べ物を必要としている人や福祉施設に届けられる。

 
―― そうした対応をとれるかどうかは、地域によって異なるのでしょうか。
澁谷 地域差は大きいと思います。また、その地域でどういう立場の人がヤングケアラーに関心を持って動いてくださるかによる違いもあると思います。新潟県南魚沼市では、子育て経験のある女性たちが中心となって家庭教育支援チームが作られ、小学校の中でお茶を飲みながらおしゃべりができる「だんぼの部屋」というサロンが行われているのですが、ヤングケアラーに関しても、この「だんぼの部屋」のスタッフなどが早めに気づき、必要なサポートにつなげることができているように思います。

「だんぼの部屋」は、市内のいくつかの小学校に設置されているのですが、中核となる小学校では月曜日から金曜日の9~16時で開室していて、子どもや親、教員など、さまざまな人が立ち寄っておしゃべりしていきます。親にとっては、構えずに話ができるスペースなので、敷居は低く、早めに困りごとを解決していくことができるようです。「だんぼの部屋」には、スクールソーシャルワーカーも時折立ち寄ったりしています。

地域でのこうした動きは、問題意識を持って積極的にサポートする人がいる部署から始まります。ヤングケアラーに積極的に関わろうとするのが教育委員会なら学校から、役所の生活保護担当ならその部署からなど、動こうとする人が自分の所属するところで何ができるかを考えて動くことで、ヤングケアラー支援も発展していきます。

 
―― ヤングケアラーの存在に気づけたとして、どの程度支援を必要としているかは、どのようにして把握すればよいでしょうか。
澁谷 ケアをすることが子どもたちに与えている影響の大きさを測るツールとして、イギリスでは「ケアが自分にどう影響しているか(PANOC-YC20: Positive and Negative Outcomes of Caring)」というアセスメントシートが使われています。これは、ケアをすることによる肯定的影響と否定的影響を測るためのシートです。肯定的側面に関しては、「ケアのために、家族の絆が強まったと感じる」「ケアをすることで、自分が役に立っていると感じる」といった項目が10項目、否定的側面に関しては、「ケアのために、とても孤独だと感じる」「ケアのせいで、逃げ出したいと思う」などの項目が10項目あり、それに対して、「まったく感じない」は0点、「時々感じる」は1点、「よく感じる」は2点として計算します。肯定的な項目が12点以下で否定的な項目が8点以上の場合には、懸念される兆候があるとされています。このツールを見てもわかる通り、かなり心理面が重視されていると思います。

また、その子どもが担っているケアをどう感じているかを知るためのシートも作られています。「ケアに関して好きなこと嫌いなこと」というタイトルが付けられたシートでは、「あなたがしているケア作業の中で、一番好きなのは何ですか?」「なぜそのケア作業が好きなのか、理由を教えて下さい」「あなたがしているケア作業の中で、一番あなたを精神的に困らせるのは何ですか?」「なぜそのケア作業があなたを困らせるのか、理由を教えて下さい」などの質問に対して、子どもが自由に記述する形式になっています。こうした質問に自分の言葉で答えることによって、その子どもにとって何が「不適切なケア」に当たるのかが見えてきます。こうしたシートは、心理職の支援にも役立つのではないかと思います。

支援に役立つ質問シート ヤングケアラー支援のページ

 
―― これまでいろいろなヤングケアラーの経験を聞いてこられたお立場から、心理士はヤングケアラー支援ではどのように役に立てると思われますか。

澁谷 私がこれまでに話を聞いてきた元ヤングケアラーのなかには、カウンセリングを受けたという方、受けたいと思っているという方が何人もいらっしゃいました。また、高校時代、スクールカウンセラーに話を聞いてもらってよかったという方、そうした経験があったから卒業後もカウンセリングを受けようと思ったという方もいました。

ヤングケアラーが、ケアについて話ができる相手やしっかり聞いてくれる人を求めているところはあると思います。元ヤングケアラーの一人は、スクールカウンセラーのように2週間に1回といった人に対して話すほうが本音で話しやすいと言っていました。毎日顔を合わせる先生や友達に相談してしまうと、「大変な家庭の子」と見られてしまいそうで、抵抗があるのだそうです。学校の先生とは違う、ほどよい距離感がよいのかもしれません。

また、ケアを終えた元ヤングケアラーに対しても、心理士の方が力になれることはあると思います。その年齢で体験できたはずのことがケアによってかなわなかった、あのときはもう戻ってこない、と感じておられる人も多くいます。ケアの真っ只中にいた時期が終わって一息ついたときに、ケアの体験を自分はどう位置づければよいのか、そのときの思いやつらさ、葛藤、現在の不安を整理できずに、悩みを深める人もいます。そうした方々にとっては、心理士の方と話をすることで、自分の気持ちの整理ができるような気がします。

 
―― スクールソーシャルワーカーが、ケア負担の軽減など「手段的サポート」で支援していく一方で、スクールカウンセラーなどの心理士は、ヤングケアラーの話を聞き、本音を引き出す「心理的サポート」によって、負担を軽くできるかもしれませんね。

澁谷 スクールソーシャルワーカーの方も丁寧に話を聞きながら支援しておられますし、「話を聞くのはカウンセラー」というように明確な役割分担をしなくてもよいような気がします。むしろ、それぞれの役割を拡張していくぐらいのほうがよいのではないかと思っています。専門性は大切ですが、その専門性の高さゆえに役割が分断されてしまうと、行政の縦割りのようになってしまいかねません。ヤングケアラーにとって、それは、何度も同じ話を専門職ごとにしなくてはならない状況となり、負担になってしまいます。大人の仕事の境界を前提として子どもをそれに合わせてしまうのではなく、大人のほうが子どもに合わせていくことが大切になってくるのではないかと思います。

また、子どもの支援においては、子どもの目線に立つことも心がけたいと思います。大人にわかる説明の仕方と子どもにわかる説明の仕方は同じではありません。大人に対しては病名を伝えればそれで理解が進むことでも、子どもは病名を聞いただけでは自分や家族の生活がどのようになっていくのか、わからないことも多くあります。実際、ヤングケアラーは、病気を持つ親のケアを実質的に担いながら、今後親の病気がどうなっていくのか、自分のわかるように専門職から丁寧に説明を受ける機会はあまりありません。たとえばこの薬を飲むとお母さんは朝起きられないことが出てくるかもしれないとか、そういうときには自分で朝ごはんを食べて学校に行けるようにこういう準備をしておこうとか、子どもの生活にどんな影響があり、それにどう対応すればよいのか、子どもがわかるように説明をしていくことは大切だと思います。

子どもは、家族の病気によっていろいろな不安や悲しさや寂しさを感じていても、それを言い出せないこともあります。子どもの言えないさまざまな傷つきや思いに気づき、共感し、子どもがその気持ちを整理して次に進めるような支援をどう作っていくかが重要になってくると思います。

 
―― 枠を作りがちな心理士は、役割を拡張していくことを意識することが必要ですね。本日はありがとうございました。

 

(インタビュー・文:介護福祉ライター/公認心理師・臨床心理士・社会福祉士 宮下公美子)


澁谷智子 Tomoko Shibuya
成蹊大学文学部 現代社会学科
教授
専門は社会学・比較文化研究。耳の聞こえない親をもつ聞こえる子ども「コーダ」の研究から、ヤングケアラー研究へ。2018年出版の著書『ヤングケアラー ――介護を担う子ども・若者の現実』で、ヤングケアラーの存在を世に広く伝えた。

 

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