第3回 実名アカウントは約3割! 心理職とSNSアンケートからみる「発信する」こと|RESTART! はたらく心理職
- 2023-4-28
- Step up!
臨床心理士・公認心理師
にしむら
先日、プライベートで観光地を訪れた際、某メディアから「街の声」のインタビューを依頼されました。心理職の皆さんならどうされますか?
筆者は少し迷ってからお断りしました。ライター以外にも臨床の仕事をしており、支援対象者の方々への影響が頭をよぎったからです。映っても数秒、見ない可能性のほうが高い、でもインターネット上に残ったものを彼らが目にしたら……。
今回は、現代を生きる私たちにとって必須ともいえる、SNS(ソーシャルネットワークサービス)を取り上げます。SNSを用いたメンタルヘルスサービスも普及し始めています。心理職がSNSとどう付き合っていくかを考えてみたいと思います。心理職93名の方にご協力いただいたアンケート結果と、筆者が3種類のSNSを1カ月ウォッチした経験をもとに、現在の心理職とSNSとの関係を整理しました。
また今回は本連載の最終回になることから、筆者を含めて心理職が「発信すること」についても考えてみたいと思います。
Twitterが最も人気。情報収集には便利な一方で……
今回のアンケート回答者はSNSのアカウントを持っている方が92.5%とかなり多く、心理職にとってSNSの利用は一般的になっていることがわかりました。
「日常的にもっとも使っているSNSは何ですか(通信手段としてのLINEを除く)」の問いには、Twitterが57%と一番多く、FacebookとInstagramがともに19.8%、TicTokはわずかでした。複数のSNSを利用している方も多いと思われますが、Twitterが多いことが特徴といえます。これには、こころJOBのTwitterを通じたアンケート協力者が多かったことも一因と思われます。
SNSの目的(複数回答)で最も多いのは「個人的な楽しみ(68.8%)」でした。二番目に多かったのは「心理職や業務に関する情報を得るため(57%)」であり、職務上役立てるために半数以上の方がSNSを利用していることがわかりました。「心理職同士のコミュニケーション(19.8%)」「心理職や業務等に関する情報発信(14%)」であり、能動的に活用しているという層が一定数いるようです。
公認心理師資格ができて以降、研修を提供する団体や個人が増えました。長い歴史を持つ職能団体では、広報の手段として主に郵送を選びますが、SNSではコストをかけることなく興味のある層にリアルタイムでアプローチできる利点があります。そのため、新規参入者ほどSNSを積極的に活用する傾向があるでしょう。筆者もTwitterでなじみの薄い領域の研修情報を得ることができました。研修機関のTweetから主催者や場の雰囲気が伝わる点も、ほかとは異なると感じました。
このように、アクティブに情報を“発信-受診-交流”する関係がSNSで成立していることは、心理職のあり方に影響を与えているのではないでしょうか。Instagramでは、主に開業している心理職が、心の健康に関する情報をまとめたスライドを発信しているのが目立ちました。センスの良い写真や動画はInstagramに多い若いユーザーを狙ってのことと思われます。リール動画(最大90秒のショートムービー)を用いた施設案内は、ユーザーのカウンセリングへの不安軽減に役立ちそうです。
アカウントは実名?匿名? ガイドラインと有名アカウントから学ぶSNSとの距離
SNSでは、第一にアカウントの設定をどのようにするかが課題になります。
インターネットでは情報管理に注意すべきなのは言うまでもないでしょう。SNSでは情報を公開する範囲を設定できますが、他者の行動を制御することは不可能です。一度インターネット上に公開された内容は完全に消えることはありません。日本公認心理師協会が2022年に発表したガイドライン1)でも注意喚起が行われています。
ガイドラインの目次 1. 「情報」の特徴について理解する 2. SNS利用の目的を明確にする 3. プライバシー設定や公開範囲の設定を確認する 4. 投稿する前に内容を推敲する 5. 守秘義務と著作権 6. アドボカシーと心の健康に関する知識の普及のために |
アンケートでは、SNSでのアカウントは「実名」が31.4%、「実名ではないが本人の特定が可能なもの」が12.8%、「匿名(本人の特定はできない)」が52.3%でした。
「心理職ということを明らかにしているか」の質問に対しては36%が「はい」、62.8%が「いいえ」という結果でした。少し古い情報ですが、日本では諸外国よりもSNSで匿名を好む傾向が指摘されています2)。Twitterでは約75%が匿名アカウントとの調査結果があることからも、本結果で最も多かったTwitter利用者の傾向を反映しているといえるでしょう。アカウントの匿名/実名と、心理職と開示しているかとのクロス表はこちらのアンケート結果を参照ください。整理をすると、以下の4に区分することができます。
パターンAの、代表的なアカウントをいくつかご紹介します。
大学教員である太田裕一氏(@you999)は、個人的な趣味や私的な嗜好をオープンにし、講義のリアルタイム実況も行っているようです3)。東畑開人氏(@ktowhata)は、Twitterを始めた理由について「本を売るため」とシンプルに表明しており、「目から下のことは書かない」という姿勢は多いに参考になります4)。YouTuberとしても有名なみたらし加奈氏はInstagram(@mitarashikana)やTicTok(@mitarashikana)で、メイク動画からメンタルヘルスの啓発まで多彩な情報発信を行い、たくさんのフォロワーをひきつけてやみません。
このように大学教員や個人開業の経営者、インフルエンサーなど、ほかの場所で自分の名前を看板に仕事をされている方は、実名アカウントを発信の場として上手に活用しています(みたらし氏はビジネスネームと思われます)。
ある臨床心理の先生は「匿名性は一度失ったら、戻すことができない」と言っていました。その言葉には非常に重みを感じました。上述の方々も、匿名性を手放して表に出て発信する覚悟を持っているからこそ、多くの人に響くメッセージになっているのだと思います。
炎上には要注意!? 公認心理師ならば罰則もある
パターンBは実名だけれども資格を開示していない方です。Facebookでは実名登録が基本なので、該当する方が多いと思われます。プロフィールなどで明示しなくとも、もともとの知人からのつながりがあるため、心理職であることをおのずと知られている場合もあるでしょう。
パターンDは匿名かつ資格を明らかにしていないので、まったくのプライベートであるか、情報収集を目的とした受け身的な利用をされている層と思われます。
パターンCは、匿名で本人の特定はできませんがプロフィール欄や投稿内容で心理職を名乗っている方です。多数のフォロワーを集めるアカウントもあります。所属領域を具体的に挙げて、「△△と〇〇領域で勤務する公認心理師」のような表現も見かけました。おそらく複数の組織に所属しており、職場の規定、支援対象者への影響、自身のプライバシー保護を意識してのことでしょう。セーフティーな方法に見えますが、問題も含まれます。
彼らのTweetは平穏な内容がほとんどですが、現場での出来事、心理職やメンタルヘルスについての持論、感情のままに書かれた他者への意見なども散見されました。ネット上での心理職に関する「炎上」(インターネット上での批判やネガティブ内容を含む投稿が集中すること)は、本パターンに当てはまる方のTweetがきっかけになったり、その方が拡散に手を貸したりすることが見られました。Tweetしたり拡散したりするのは、それぞれ思いや意図があるからこそと思います。ただ、不特定多数が閲覧可能であることがSNSの特徴なので、支援対象者がそれを目にしたときの影響は懸念すべきでしょう。
アンケートで、SNSでのネガティブな経験として「批判や意見の相違を見ることがつらい」とのコメントがありました。筆者も同様に、SNSのやり取りをついつい見続けてしまう(そして気持ちが高ぶって眠れない……)悪循環に陥ることがありました。
本稿を執筆している間にとあるTweetが炎上していたため、さまざまな反応をウォッチしていました。その最中、パターンAの方は節度をもった対応をしていることがほとんどに感じました。パターンが異なる者同士のやり取りでは、建設的な議論にはなりにくいでしょう。もともと面識がないうえに、実在するのかも資格の有無も証明しようのない匿名アカウントとでは当然と思われます。ただ、実名アカウントと匿名アカウントが曖昧に共存するからこそ見えるリアルタイムの本音(のようなもの)のやり取りには、何とも言えない求心力があります。どのようにバランスをとって付き合うかが、Twitterの面白さであり難しさなのだと思いました。
心理職ならではの注意は当然必要です。公認心理師法では、第41条の秘密保持義務に反した場合は1年以下の懲役また30万円以下の罰金に相当します。資格にかかわらず、誹謗中傷が名誉棄損(刑法230条)と判断されれば3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金が命じられます。互いに匿名であっても、相手から正当なプロセスで訴えられるなどで上記のような処分を受けることがあります。また、所属先の就業規則にSNSの利用について定めているところも多く、確認・遵守が必要です。
SNSは指先ひとつで相互交流ができる有効なツールですが、これらのリスクがあることは十分覚えておきたいですね。
なぜ私たちは発信するのか。新年度のRESTARTに向けて
本連載では、有資格者ということを明示してペンネームで執筆を行ってきました。前述の分類ではパターンCにあたります。臨床はもちろんのこと、論文や専門書を書くときには本名(=資格登録名)を用いています。知人や同僚にはライター業を明かしていますが、支援対象者には伝えていません。臨床、ライターとしての発信、プライベートを分けるための筆者なりのやり方で、正解かはわかりません。冒頭で紹介した街頭インタビューのエピソードも、筆者とは異なる判断をする方もいると思います。少なくとも、一人が持つさまざまな顔は切り離せず、相互に影響を及ぼし合うことを執筆を通じて実感しました。何を伝え、何を伝えないか、それは誰を守り、誰ためになるのか。すべての対人支援に通じるテーマに思えてなりません。
筆者は2021年から「そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?」、2022年からは「RESTART!はたらく心理職」と2度にわたってキャリアについての連載を行いました。いずれも個人的な経験や疑問に基づき、「多くの方に問いかけたい」「一緒に考えてもらいたい」という思いが動機であったと振り返ります。発信には、責任とリスクが伴います。不十分な記述や至らない点もあったと思いますが、お付き合いいただきありがとうございました。お気づきの点がありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。
連載には、読者の方から複数の感想・意見をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。一部を紹介させていただくと、資格取得後の研修の必要性、動画配信で伝えられる心理職像と自身の現状とのギャップ、都市部と地方との差異、サービスの料金設定などへの悩みなどでした。いずれも切実なもので、業務とご自身のあり方に真剣に向き合っておられることを感じました。この連載のタイトルは「RESTART!」です。感想・意見をくださった方々、すべての読者の皆さまが、悩みながらも前向きに活動されることを祈っております。
2023年度がスタートして1か月が経ちました。公認心理師資格においては5年間の経過措置が2022年に終了し、大学入学時から公認心理師課程で学んだ方が国家試験を受験し、現場に出るまであと少しです。本格的な公認心理師の時代を迎えるにあたり、何をどのように発信するかは、私たち心理職にとって今後ますます重要になっていくでしょう。
どのように個人として働いていくか、支援対象者と関係者に働きかけていくか、さらには広く一般の人々や社会にどう働きかけていくか。すべてを大切にしながら、一人ひとりが無理なく、できれば楽しく働き続けられるようになることを心より願いつつ、本連載は結びにしたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
1)ソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用した情報発信における留意点.一般社団法人日本公認心理師協会 倫理委員会.2022.
https://www.jacpp.or.jp/document/pdf/socialnetworkservice_20221110.pdf(2023年3月31日閲覧)
2)総務省.インターネットリテラシーの重要性.情報通信白書平成26年度版.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143120.html(2023年3月31日閲覧)
3)太田裕一.臨床心理士とインターネット.心理臨床の広場.4(1),2012,28-9.
4)東畑開人.余はいかにしてTwitterの実名アカウントとなりしか.心理臨床の広場.第14(1),2021,30-1.
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