第2回 公認心理師資格をとってどうなった? 福祉・教育関係からRESTARTした方々の座談会開催!(前編)│RESTART! はたらく心理職
臨床心理士・公認心理師
にしむら
はじめに
公認心理師資格ができて5年目。特例措置期間としては最後の1年、現任者による受験はラストとなりました。受験されたすべての皆さま、本当にお疲れさまでした。
今回は、現任者として公認心理師を取得し、RESTARTをした方々にお集まりいただき座談会を行いました。ご協力いただいた皆さま、この場を借りて心より感謝申し上げます。
多職種連携、転職、専門性、研修、職業アイデンティティ……。
実際どうなの? ほかではなかなか聞くことのできない、本音満載の対談です!
今回は、前編「資格取得後の働き方」です。
<座談会の参加者>
Aさん ソーシャルワーカーとして障害者相談支援事業所に勤務。保有資格:精神保健福祉士、公認心理師
Bさん 複数の福祉事業所を経営する傍ら、週1日保健センターで健診業務。保有資格:介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、保育士、公認心理師、(介護支援専門員)
Cさん ケースワーカーとしてNPO法人に所属、個人事業でカウンセリング、企業コンサルティング、ウェブライティングなど。保有資格:養護教諭、公認心理師
それぞれの公認心理師資格の活かし方
にしむら(以下、N) 本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さまはそれぞれ専門資格をもってキャリアを積まれたのち、公認心理師を取得されてリスタートされた方々だと思います。現在、公認心理師資格をどのように活かしていますか?
Aさん 多職種とのチームでの関わりが多いため、自身の支援の方針を伝えるとき、心理的な見立てで説明するのに役立てています。実際、看護師やソーシャルワーカーの方が見立ての違いを感じてくれることもありました。
Bさん 資格を取得してから保健センターで働いています。心理職として働いてみて、ソーシャルワーカーとの目線の違いに気づきました。今は、正直なところ、この資格をどう活かしていくか迷っています。アイデンティティをどう確立するか。やればやるほど難しさを感じ、自信を失っています。
Cさん 多職種連携のなかで活用しているというAさんの発言に共感しています。NPO法人の仕事は、多職種が集まる所に民間団体の一員として入っていきます。公認心理師や他の資格を活かしてさまざまな角度で見立てをしたい気持ちもある一方で、それぞれの人に響く資格、見方があって、またそれは行政、医療機関、それぞれの窓口で違う。そこで役立つ資格だと思っています。
ダブルホルダー(臨床心理士と公認心理師をもつ心理職)と一緒に仕事をして気づいたこと
N Bさんのご発言で、アイデンティティの持ち方が難しいとありました。資格を取って新しい職場で働いたことによって、現実を知って自信がなくなり学ぶ必要性をさらに感じている、と。
Bさん そうです。同僚はダブルホルダーなのです。自分は、採用時の資格要件は満たしていたけど、強みである社会福祉の目線を活かすことは、今はできていない。そして心理師的な見立ても十分にできていない。自分のできることは何だろうって、ここにきてすごく勉強しています。発達検査の研修を受けたり、初めてスーパーバイズを申し込んだりしてぎりぎり追いついているところです。
Cさん すごくわかります。自分で学ばないと、資格を持っているだけではだめだなと思います。自分の専門性のカードの一つとして、チャンスと思って取得しました。実際、いろいろな現場で働くと有資格者もさまざまです。Gルートで資格を取った自分に自信が持てず不安に思ったこともありましたが、考えるのを止めました。事実は変わらない。そこに自分がどれだけ努力していけるか、現場で専門性を伝えられるか。学会で勉強したり、偏らないようさまざまな職種の勉強会に参加したりして、自分を成長させようとしています。もちろん、そこに至るまで悩みました。何をしたら自分のスキルの裏付けになるのだろう……と。
Aさん 専門職の中にも、公認心理師は臨床心理士の国家資格化だと考えている人が多いんじゃないかと思います。
Cさん 一般の方においても、この資格の違いは分からないかもしれません。
(後編へ続く)
前編をふりかえって
AさんとCさんは、現職の中で公認心理師資格を活かしていました。心理学的な見立てができることを資格取得が裏付け、かつ看板の一つとして機能しているようです。多職種連携のなかで、それぞれの職域を発展させ、心理学的な視点が反映される機会を拡大し、対象者と関係者にポジティブに寄与することにつながっています。
一方、資格取得後に新たな現場に飛び込んだBさんは、リアリティ・ショックに直面したようでした。これは当然のことと思われます。今もって、心理職の働く場所はダブルホルダーが占めていることが多い現状があります。心理面接や心理検査を主とする業務では、技術と経験が重要です。他の専門職でキャリアを積んだ方ほど、役割やマインドセットの違いを感じやすいのではないでしょうか。
ですが、これは新任であれば誰もが感じることであり、時間と経験、研鑽によってカバーされていくものと思います。研鑽については後編で改めて取り上げます。
現場が転職者に合わせてくれることはほぼありません。求められるものの変化に対応できるかが、新しいステージでの活躍のカギとなると考えられます。また、ダブルホルダーにとって、Bさんのように新たなチャレンジをする方を同僚に迎えることは良い刺激になるでしょう。
資格の認知度に関する指摘は重要に思います。公認心理師は新しい資格であり、まだ社会的に十分知られているとはいえません。
公認心理師法では「国民の心の健康の増進」を目的としていますが、現状では有資格者や関係者の間で、具体的な役割について明確なコンセンサスがあるとはいえません。心理職の関わる現場は多様で、求められる役割も場面によって異なることがあります。Gルートに限らず、現任の公認心理師は全員が特例措置での取得であり、4年制大学の1年時から合計6年をかけて公認心理師法の定める科目を履修して資格を取得した人はいないことも要因の一つに挙げられます(下図参照)。
バックグラウンドがさまざまな現状だからこそ、従来の各資格や職種が作ってきた価値観にとらわれすぎないことは重要だと考えます。それぞれが悩みながら協力し、対象者と社会に届く公認心理師像を前向きに作り上げていくことが大切ではないでしょうか。
引用文献
1)一般財団法人日本心理研修センター.公認心理師試験.https://www.jccpp.or.jp/shiken.cgi(2024年6月13日閲覧)
★後編の記事はこちら
記事への感想、ご意見、取り上げてもらいたいテーマなど、ぜひ下記よりご連絡ください。お待ちしています。
あわせて読みたい
・第1回 就職の経緯は「紹介」が4割! -アンケートからみる、心理職の就職・転職事情2022-|RESTART! はたらく心理職