最終回 心理職の働き方改革(前編)~これまでの連載から見えてきたこと~ |そのモヤモヤを一緒に解決しませんか?

臨床心理士・公認心理師
にしむら

はじめに

2021年が終わろうとしています、皆さまにとってどんな一年だったでしょうか。マスク姿でお読みいただいている方も多いかもしれません。マスク、手洗い、体温チェック……。感染予防対策に明け暮れたように思います。生活でも仕事でも、さまざまな変化への対応を求められる場面があったことでしょう。本当におつかれさまでした。

3月からスタートした本連載は今回で最終回を迎えます。個人的なモヤモヤに端を発した連載でしたが、たいへん多くの方にお読みいただき、感謝に堪えません。モヤモヤの問題提起からスタートし、産休・育休アンケートの公表、産休・育休に関連した二人の専門家からのお話、他職種からの視点についてのアンケートと座談会、フリーランス心理職の寄稿を含めた全7回でした。第1回で、「モヤモヤを共有して話し合うことは、奥にある悲しみや怒りを癒やし、問題解決につながる」と書きました。連載と読者の方々からのリアクションを通して、少しずつモヤモヤの正体が見えてきたように思います。

最終回は、連載を通じて見えてきた心理職の働くモヤモヤの正体とは? その解決法は?を探ります。後編では、僭越ながら「これからの心理職として働き続けるために大切な5つのこと」を挙げました。お付き合いいただけますと幸いです。

不安定な雇用の背景にあるものは? 心理職はエッセンシャルワーカーなのか

連載を通じて一貫して浮かび上がったのは「心理職の雇用は不安定」ということです。心理職の約40%が非正規雇用ですので、無理もないでしょう。そりゃ、モヤモヤしますよね。しかし、嘆いてばかりではいられません。現実を冷静に見つめ、諦めずに対処することが大切です。

なぜ非正規雇用が多いのか? 筆者なりに考えてみました。

2019年のCOVID-19のパンデミックにより、世界中で大きな変化が起こりました。その中で、コロナ禍においても人々のライフラインを守るためにリスクを負って業務にあたる方々へ、「エッセンシャルワーカーに感謝しよう」との言葉がメディアやSNSで拡散されました。

では心理職は「エッセンシャルワーカー」なのか、考えてみたいと思います。
エッセンシャルワーカーとは、人々が生活を維持するために必要な業務を行う方々をさします。医療従事者や介護福祉士をはじめ、インフラ関係、食料販売員などの生活必需品関連、警察や消防官などさまざまな職種を指します1)

心理職は具体例に挙げられておらず、「…などさまざまな職種」に含まれるのか、意見が分かれるところかもしれません。コロナ禍でカウンセリングや心理検査などを一時的に休止・減少したところは少なくないと思います。心理的支援が多くの方々をサポートし、社会に貢献しているのは間違いありません。しかし、より生命と生活に直結する活動と比較すると、優先順位は下がってしまいます。

ある大手ホテルのコロナ禍における医療従事者向け特別プランには、対象となる職種が挙げられていましたが、心理職は含まれていませんでした。悲しいですね。これには、社会的な認知度の低さも関係していると思います。

メジャー? マイナー? 心理職をどう伝えていくか

心理職という職業自体が、残念ながら日本ではまだ一般的とは言い難い現状があります。年配の親戚に説明するときに苦慮した経験は、筆者だけではないでしょう。ある調査では、1年間に心理カウンセリングを受けた経験をもつ人は成人の約3%だそうです2)。ここでは領域や実施者の職種は問われていないので、公認心理師や臨床心理士によるカウンセリング経験に限定するとさらに下回ると思われます。一般の方のメンタルヘルス問題への抵抗感は根強いものがあります。連携することの多い関連職種からも心理職の仕事は見えない部分が多いとの声がありました(第5回参照

「これから大事となる仕事ですね」と、ずいぶん前から言われ続けているように思います。ツッコミたくなる気持ちを抑えつつ、大事だから国家資格になったのであり、診療報酬や施設基準などに加わりつつあるのだと前向きに考えたいですね。「こころJOB」に掲載されている記事のとおり、心理職の活躍の場は増えています。他職種から公認心理師を取得した方々によるアンケートと座談会からは、やはり心理職にはほかにはない魅力と価値があるように感じます(第5回参照)。

ただ、仕事の特性上、表に出ることが少ないのは確かです。これからは、分かりやすく職種と支援内容について伝える活動が必要ではないでしょうか。日々の仕事で連携する方々とのコミュニケーションと説明は、とても大切です。最近は一部の心理職によるYouTube、SNS、活字・映像メディアでの活動が目立ちはじめ、広く一般の方へのリーチを試みています。本連載も、一端となればと思います。同時に、伝える際には専門職としての倫理を守ることも重要です。不特定多数の方が目にする媒体において、人々と社会にどのようにメッセージを伝えていくか、バランス感覚が求められると感じます。

心理職とジェンダー格差社会

心理職の産休・育休をめぐる厳しい状況は保育士と似ているとの指摘がありました(第3回参照)。残念ながら、日本ではエッセンシャルワーカーのなかでも、乳幼児やメンタルヘルス疾患、障がいをもつ人、高齢者など、ケアを必要とする人々への支援が、社会的に評価されていない側面があります。一部の医療・福祉施設の経営は厳しく、心理職は看護師のように必須ではなく、リハビリテーション職のように算定が取れる職種でないことも重なり、低待遇に抑えられているのではないでしょうか。これは、ほかの業種でも心理職においても、平均収入が企業>医療・福祉施設の偏りになることにも表れています。

上記職業の共通項として、女性が多いことが挙げられます。日本はほかの先進国よりもジェンダー格差が大きいことは有名です。育休に関するアンケートでは、育休制度がないか、あっても使えないことやマタニティ・ハラスメントのために離職したケースが複数報告されました(第2回参照)。女性は出産、介護、パートナーの転勤などライフイベントの影響を受けやすく、同じ職場でキャリアを積むことが難しくなりがちです。全国的に男女の収入差は女性が男性の74.3%と先進諸外国を下回っています3)。働き方改革が提唱されて久しいですが、長時間労働が可能な人(主に男性や独身の女性)に業務や役割が集中し、比較的収入の少ない女性が家事など家庭内でのケア労働を担うという構図が続いていることも要因です。

連載をきっかけに、女性心理職の大先輩の先生方に、ワークライフバランスについてたずねる機会がありました。表立って言うことはなくとも、仕事と家庭の両立に悩まれた過去があることを伺いました。筆者は、驚きと切なさを感じ、先生方の実績の背景にあるものに思いを馳せました。どのように働き生活していくか、どんなことで悩み、いかに乗り越えたか、世代とジェンダーを越えて、フランクに安心して話し合える場があればと思います。それは、癒やしとエンパワメントの場となり、よりよく働き生活していくための、新たなアイデアの源になるのではないでしょうか。

さらに、筆者は育休を取得した男性心理職を複数知ることとなりました。アンケートでは、育休取得者の81%の方が「育児経験が自身の心理臨床(心理的支援)に活かせる」と回答されましたが(第2回参照)、彼らのその後は興味深いです。心理職全体では約30%とマイノリティである男性心理職は、ときにジェンダー不平等を感じているのではないかとも考えます。これらについて、別の機会で記事にできればと思います。

 

後編へ続く

 

引用・参考文献
1)埼玉県ワクチン接種センター相談窓口.県ワクチン接種センターでのエッセンシャルワーカー向け接種について.https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19/essential_worker.html(2021年12月5日閲覧)
2)独立行政法人中小企業基盤整備機構.市場調査データ:心理カウンセリング.J-Net21.https://j-net21.smrj.go.jp/startup/research/service/cons-counseling.html(2021年12月5日閲覧)
3)厚生労働省.令和2年賃金構造統計調査の概況.2021.https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/dl/13.pdf(2021年12月5日閲覧)

 


【本連載へのご意見&ご感想をお待ちしています】
皆さまの「モヤモヤ」を語り合い、正体を明らかにし、解決につながる場所になればと考え、本連載を企画いたしました。こちらの最終回や、連載全体に関しご意見やご感想を教えてください。また、今後取り上げてほしいテーマがありましたらぜひお教えください。

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