認知症の人とその介護者に心理職ができること(2)介護負担の可視化は介護者の負担軽減につながる

介護者自身が対応できる解決焦点型アプローチ

私は、これまでに大学病院や地域の基幹病院など3つの病院で介護者カウンセリングを実施してきた。そこで出会った介護者は20~80歳代と幅広く、要介護者の病態もアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、高次脳機能障害と多岐にわたっていた。

介護者の年齢や性別、要介護者の疾患や続柄などさまざまであったが、すべての介護者が介入前やカウンセリング初回時に「365日、24時間介護に追われている」と述べた。

月に1度の主治医診察やカウンセリングでこの問題に立ち向かうためには、短期療法の中でも、解決焦点型アプローチの枠組みに沿って介護者カウンセリングを行うことにした。解決焦点型アプローチとは、問題に焦点を当てるのではなく、いかにその問題を解決するかに焦点を当てる手法である。

認知症介護は、要介護者の病態の進行に左右されるという困難さを併せ持っていることから、在宅介護において、新しく生じた問題に介護者自身が対応できるように支援する上で、解決焦点型アプローチは有用であると考えた。在宅介護の介護者のケアでは、心理士の不足やカウンセリングルーム以外で過ごす時間が圧倒的に多いことを考えても、介護者自身が問題を解決する力を身に付ける必要がある。
 

介護負担の現状を客観的に把握する

私が介入しているケースでは、要介護者が複数人いる複数介護や若年の要介護者を介護している例が多く、そこから1例紹介する(介護者には口頭で説明し同意を得たが、一部情報を加工している)。

介護者、要介護者ともに50歳代、妻が夫を介護している。夫のほかにも家庭内に要介護者を抱えており、複数介護である。

夫の診察付き添い時に介護者の流涙が見られるようになり、主治医が確認したところ不眠が認められ、介護うつ疑いでカウンセリング導入となった。また、介護負担によってアレキシサイミア状態(自分の感情を自覚・認知・表現することができず、感情が平板化している状態)にあり、診察時やカウンセリング初期では、淡々と事実を述べるのみであった。

介護負担の客観的把握のために、表に挙げた課題を用いた。

まず、初回時に行った介護コーピング尺度の結果では、介護の困難状況下では対処法を見出すことができず、介護に振り回されていると感じるなど、介護負担感が高まりやすい非コーピング群と呼ばれるスタイルを示していた(図内青線)。

そして、表の②~④の課題を用いるうちに「一人で頑張りすぎていた」「介護負担について話せる場所がなかった」と、介護者が自覚して発言することができた。

カウンセリング初期では淡々と事実の報告に終始していた介護者であったが、心理士との信頼関係ができてくると、声を出して笑ったり、負担感を話すときに流涙したりするなど、自然な感情表現ができるようになっていった。

24時間の過ごし方を整理して自分自身の時間を確保する

介護者が現状を自覚し、「介護負担を軽減したい」「自分の介護スタイルを変えたい」との希望が強くなったため、24時間スケールを活用し、要介護者に振り回されていると感じる1日の過ごし方から、意識的に自分自身に使える時間を把握して確保することや、周囲にSOSを出す練習を行った。

介護者自身や要介護者の1日の過ごし方を可視化して客観的に把握したことによって、これまで突発的に生じていると感じていたBPSDのように見える問題行動も、要介護者なりの意味を持っていたこと、そして介護者の関わりによってさらに問題行動が強化していたことに気づくことができた。

これらのツールやカウンセリングを通して、非コーピング群のスタイルを示していた介護者のコーピング・スタイルに変化が見られた(図内赤線)。実際に、要介護者の状態や介護の状況が好転したわけではないものの、介護者自身が自分のパターンを把握し、意識的に自分の時間を確保することや介護保険サービスの利用に踏み切ったことから、介護のペース配分を可能にした。

介護における困難状況下での対処傾向の把握や介護負担感の重みづけ、24時間の過ごし方を介護者自身が記載し、客観的に把握することに加えて、在宅介護の限界点を設定し、心理士などの他者と共有しておくことによって、これまで一人で頑張りすぎてしまう傾向にあった介護者の負担軽減につながり、介護破綻を防ぐことができた。

また、課題を用いることで「365日、24時間介護に追われている」と述べていた介護者の多くが、自分自身の時間を確保し、在宅介護の継続を可能にしている。
 


永山 唯 Yui Nagayama
医療法人社団 創知会

臨床心理士、公認心理師、老年精神医学会上級専門心理士。京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学認知症疾患医療センター専任心理士として認知症の人と家族のカウンセリングに取り組む。2020年より医療法人社団 創知会に入職。

 

*本記事は、弊社刊行『医療と介護Next』2019年5巻5号に掲載したものを転載・一部改変しております。 

 

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