認知症の人とその介護者に心理職ができること(1)介護の現場で心理士を活用してください

誰が介護者へのメンタルケアを行うのか

老老介護や認認介護、ヤングケアラーやミッシングワーカーの問題など、年々介護の問題は増えてきている。2000年に介護保険制度が開始されて以降、地域包括支援センターなどを中心に家族支援も行われている。ただ、介護の問題は要介護者を中心に検討されるため、介護者自身の困り感や不安を聞き、解決を図るために十分な時間を割くことは難しい。

私は、大学病院や地域の基幹病院で心理士として働く中で、主に介護者へのメンタルケアに携わってきた。

在宅介護の場合、要介護者を1人にできないことから、介護者が長期間・継続的にケアを受けたり、通ったりすることができない。また、老年期領域を志望する心理士はかなり少なく、心理士による介護者へのメンタルケアはさらに届きにくい現状がある。加えて、精神科のカウンセリングにつながる介護者はそもそも抱えている問題が多く、心理士が介入しなければならない困難な症例のため、カウンセリングを必要とする前の段階での困りごとを抱える介護者に出会うのは非常に難しい。
 

頑張りすぎている介護者に心理学を応用する

心理士を目指したのは、約20年前のことである。私はかなりの田舎で生まれ育った。新しい令和の時代を迎えた今でも家父長制度が残っているような地域である。そんな閉鎖的な地域で母は現在も介護者であり、在宅介護20年以上のベテランである。うち12年間は同時に3人の在宅介護をしていた。天真爛漫であった母から笑顔が消え、幼心に介護の難しさを感じた。

ケアを必要としているのは介護者も同じはずなのに、なぜ介護者ばかりが頑張らなければならないのか、介護者をケアするにはどうすればいいのか、これが心理士になったきっかけである。

ただ、志はあっても、実際に家族のメンタルケアは容易ではなかった。介護の困難さやつらい状況を実際に見ている家族が話し相手になる場合、介護に対するネガティブな発話しか出なくなってくる。一方、私自身が心理学を学ぶことによって、母を苦しめる存在として「憎い」とさえと思っていた要介護者の言動にどんな意図が隠されているのか、そしてそれをより強めてしまう関わりが介護者側にもあるのではないか? ということを考えるようになった。

大学や大学院では、介護者の介護困難場面での対処傾向を研究し続けた。研究を通して学んだことや心理士として働く中で、わが家の介護も変わっていった。

それまでは介護保険サービスも使わず、耐えるしかないと思っていた母であったが、私は、決してサービス利用=手抜きではないことを訴え続けた。実際にサービスを利用している家族にインタビューしたことも大きな後押しとなった。在宅介護における介護者へのケアとしては第三者の介入が望ましいと言われているが、私は認知症やメンタルケアの専門知識を持つ者の介入が必要ではないかと考えている。

この志を理解し、実際にカウンセリングの場を作ってくださった京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学の成本 迅教授のおかげで、私はいろいろな介護者に巡り合うことができた。

どの介護者も自分だけで頑張りすぎてしまう傾向にある。施設入所なんてもってのほかで、介護保険サービスの利用でさえ手抜きになってしまうのではないかと、罪悪感に駆られる介護者を多くみてきた。介護者自身も頑張りすぎていることや限界を超えていることに気づかない。

私自身はなかなか在宅介護の場に行くことはできないものの、幸いにも、ケアマネジャー(以下、CM)と連携することが多く、研修会などで介護者への声かけやツールを使った聞き取りなどの方法を伝えてきた。

その際に多くのCMから、「介護者の話を聞いてあげなくてはならない! という気持ちと、アドバイスしたい! という気持ちのバランスをとることが難しい」「介護者が混乱した状況で話を聞くことは傾聴のトレーニングを専門的に受けた人でないとしんどいと思う」などの意見が挙がり、心理士が最初に受ける傾聴トレーニングの重要性を再認した。

また、CMや看護師など、ケアを提供する側が一生懸命になりすぎる様子を見聞きしたことは、燃え尽きを防ぐために私がカウンセリングで使用しているツールの普及・一般化を試みるきっかけになった。
 

小さな困りごとを抱える段階から関わる

回数を限定して行う短期療法の手法を介護者カウンセリングに応用し、一定の効果を得ているものの、カウンセリングに来る介護者はごく一部であろう。現に、病院で待っていることしかできず、介護者が来てくれないことにはカウンセリングができない。

カウンセリングにつながるころには、介護者の負担感や困り感はとても大きなものになっている。介護者がもっと小さな困りごとを抱えている時点で関わることができれば…との思いを持ち続けていた。

前職では、西村伊三男副院長がこの思いに共感し、機会をつくってくださり、認知症初期集中支援チームの一員として家族支援に参加した。心理職の国家資格化(公認心理師)によって、これまで認知症ケア加算や認知症初期集中支援チームの構成要員から漏れていた心理職が、今後、配置基準に加わることを期待したい。

初期集中支援チームへの心理職の配置は非常に先駆的な取り組みである。心のケアもできる初期集中支援として心理職が安定的に配置されるようになれば、地域での生活を支援しながら、もっと充実した介護者の心のケアが行える社会になるかもしれない。

 


永山 唯 Yui Nagayama
医療法人社団 創知会

臨床心理士、公認心理師、老年精神医学会上級専門心理士。京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学認知症疾患医療センター専任心理士として認知症の人と家族のカウンセリングに取り組む。2020年より医療法人社団 創知会に入職。

 

*本記事は、弊社刊行『医療と介護Next』2019年5巻4号に掲載したものを転載・一部改変しております。 
 

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