多職種連携の実践と経験を振り返り、心理職に精神科医がいま伝えたいこと

精神保健福祉士や作業療法士など、精神科領域で活躍する専門職がまだ国家資格となっていないころから、医師、看護師、精神科ソーシャルワーカー、心理職など多職種との協働を精神医療の現場で実践してきたおおさかメンタルヘルスケア研究所代表理事の藤本 修先生。心理職に必要な資質や備えておくべき知識、これからの展望をうかがった。

 

―― おおさかメンタルヘルスケア研究所には4名の心理職が所属しており、カウンセリング部門があります。そもそも心理職と協働することになったきっかけは何だったのでしょう。
藤本 40年ほど前になりますが、大阪府立公衆衛生研究所精神衛生部(1994年に大阪府こころの健康総合センターへ移転)の外来診療で、多職種とのチーム連携を行うことになったことがきっかけです。研究所という公的な機関のため、精神科医、心理職、ソーシャルワーカーが二人ずつ配置された医療体制でした。

受理面接では精神科ソーシャルワーカーが主訴や症状、生活環境や家族、生育歴などを聞き取ります。その後、精神科医が初期診療を受け持ち、必要ならば心理職に心理検査のオーダーを出します。ケースカンファレンスでは、それぞれの専門性を活かしながら一人の患者にどのように関与するかを話し合いました。スタッフみんなと同じ空間にいることが多かったので、休憩時間も患者についてのやり取りを常に行っていました。

大学病院の精神神経科、総合病院の神経科を経て赴任したこの臨床現場は、専門職が互いに尊重しながら意見を集約し、機能分担をする実践の場であり、その体験が非常に有意義なものでした。それが情熱の原点となり、今も規模は小さなクリニックですが、多職種で連携し日々診療を続けています。

 

―― 情熱の原点となった体験とは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。
藤本 前述の職場で初めて「心理職」という存在に出会ったのですが、その方が非常に優秀だったんです。その人との出会いがポジティブな体験だったということに尽きますね。心理検査の解釈を的確に教えてもらえたこと。それぞれの専門職の見立てや意見をケースカンファレンスで共有できたこと。これらは診療にとても参考になりました。

心理職だけでなく、精神科ソーシャルワーカー、看護師など周囲にいた専門職の方々ともコミュニケーションが取りやすく、おかげで非常にスムーズに臨床を行うことができました。どうしても十分な診療時間が取れないので、ほかの専門職が得た情報がありがたかったです。人に恵まれてきたと実感しています。

 

―― チーム連携が難しいと思われたことはありますか。
藤本 その後、総合病院を経て、精神科入院病床のある大阪府立病院の精神科部長に赴任しました。高校生から高齢者まで、さまざまな精神的な病気を患う患者に向き合いました。社会的にも経済的にもハンディキャップを背負った人から富裕な人まで多様でした。

三次救急病院でもあったので、自殺未遂や急性精神病状態の患者など、重篤なケースも搬送されます。次から次に患者が来るという野戦病院のような職場でした。

当時、府立病院の心理職はほぼ心理検査要員でした。配置されている人数も一人だけで、前と比べるとチーム連携は難しかった。精神科医と心理職、関わりはあるけれど「連携」という意味においては緊密な関係性を築けませんでした。

協働は、人と人との関係をどう構築していくかが肝要です。環境面の問題や時間的な制約もあり、相互にコミュニケーションを取って関わっていくことが困難な状況でしたね。

 

―― 先生は心理職を志す大学生や大学院生の指導にも携わってこられました。どのような苦労がありましたか。
藤本 雇用の場を切り開くことですね。公認心理師の場合にも、立派な専門職として養成することは大切ですが、受け皿を広げる必要があると感じています。

指導に携わっていたころ、精神保健福祉士は国家資格となりましたが、精神医療の中でのケースワークの専門家としての役割はまだ浸透していない段階でした。受け持ちの学生の働く場を作るために精神科関連の医療機関に直接打診して、就職の門戸を開いていきました。医師と医師との話の中で必要性を徐々に理解してもらい、少しずつ雇用に結びついていきました。

臨床心理士の資格を持った学生が医療現場に入っていくときにも、同じような過程がありました。

 

―― 現場で働きたいと考える心理職が身につけておくべきことは何でしょうか。
藤本 まずは精神医学を知ること。たとえばリストカットや失神、目の前で奇声を上げるという症例に当たったとき、基本的な精神医学の知識を必ず持っておかなければなりません。幻覚や妄想を有するケースでは、寄り添うだけではだめな場合もあります。

心の悩みがあったから病を得た、という観点で心理職は見立てる傾向を感じます。しかし、生物学的、科学的な部分が原因となって起こる症例もあるという視点が絶対に必要です。バイオの部分を見抜けないと、間違った対応をしてしまう危険性があるからです。

 

―― どのような志を持って研究所を開業されたのか。これからの展開も教えてください。
藤本 大学教員として仕事をする中で産業臨床に関わるようになり、メンタルヘルスの啓発とともに、精神医学の知識のある心理職が働く人のメンタルヘルス支援の現場でもっと活躍してほしいという期待が芽生えました。そこで10年少し前に、現在のような産業と医療の接点となる研究所を立ち上げました。

当研究所は、令和の到来を機に移転しました。精神科・心療内科クリニック、カウンセリングルーム、ストレスチェックやセルフケア、パワハラ研修などのEAP事業といった機能分化がより明確となり、それぞれの場で役割を持ち関わってもらっています。

産業分野では、外部診療機関としてだけではなく、企業の中に入り、精神科産業医、保健師や看護師、心理職が連携していく産業精神保健体制の構築が必要です。現在、事業所と相談しながらそれらを推進しています。

 

―― 最後に、心理職に期待することはありますか。
藤本 一般的な印象なのですが、心理職は几帳面でコツコツと真面目に働くけれど、内にこもりがちで外に広げるという意識が少ない人が多いように感じています。

社会的なニーズは高く、支援を求めている企業は実はかなり多いです。心理職が外へ出て、必要性と専門性をアピールしていくことが重要です。まず企業という現場に入って、キーパーソンは誰かをつかみ、積極的に心理職の必要性をアピールしてください。

心理の専門家として仕事をするには、公認心理師になるための学習だけでは足りません。精神医学の科学性やあいまい性、薬についての簡単な知識などをぜひ持っておいてほしいです。

そして、外に向かって一歩踏み出す行動力とコミュニケーション力も高めてください。社会的ニーズを捉え、医療分野からさらに産業保健の分野にも心理職が活躍できる場が広がることを期待しています。

 

(インタビュー・文:一般社団法人 おおさかメンタルヘルスケア研究所 カウンセリングルーム室長/公認心理師・臨床心理士 関根友実)


藤本 修 Osamu Fujimoto
一般社団法人 おおさかメンタルヘルスケア研究所
代表理事/附属クリニック 院長

おおさかメンタルヘルスケア研究所は、職場のメンタルヘルスを支援するほか、診療内科・精神科のクリニックを擁するとともに、臨床心理士、公認心理師の資格を有する専門カウンセラーが心の悩みの相談に応じるカウンセリング部門を新設。メンタルヘルスケアに総合的に関わる。

 

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